貯金は一銭もない。食べるものも底を尽いた。
この一週間゜、7日間の内雨天の2日を除いて 5日虚無僧に出た。
名古屋駅前は 華やかな若者たちで溢れている。その片隅に
異様な虚無僧。しかし誰も見向きもしない。気づかないのか
無視゜しているのか。
彼らの冷ややかな嘲笑と愚弄に堪えながら、ひたすら尺八を吹く。
騒音迷惑にならないように、細心の注意を払い、一音一音に心を
こめて吹く。 だが3時間吹いても反応はなし。
絶望とあきらめの窮地に立たされた時、一人の若者が、通りすがりに
さりげなく小銭を入れてくれた。そんな時、絶望の中に一筋の光明を
見た気がするのだ。
周囲にはチラシやティッシュを配る人、広告のプラカードを掲げて立つ人。
そのバイトの方が、よほど収入になるだろう。1日で6000円とか。
でも私にはできない。私には尺八しかない。私にとって尺八は
唯一の生きるための道具なのだ。そこまで追い詰められて、ようやく
普化の禅を悟れるのだと私は思う。