浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

大学の自治

2015-03-16 20:00:03 | 政治
 戦前、国家による学問弾圧事件の際、大学の教授会が一定の抵抗を示すことがあった。もちろん強権的な抑圧に抵抗を貫徹することはできなかったが、しかしそれでも戦前における「大学の自治」を守ろうとした行動として歴史的に評価された事件である。

 そして戦後、日本国憲法の下では、大学の自治は当然のものとしてあった。それは戦前に繋がる教授会の自治という面が強かったが、1970年代初めには、全構成員による自治という観点から、学長選挙に学生の投票結果が参照されるような大学も出て来た。

 『法律時報』という、日本評論社が発行している雑誌があるが、その臨時増刊号に『大学の自治』というものがあったことが思い出される。

 しかし今、大学の自治は消えている。国立大学が法人化され、学校教育法が改悪されるなど、大学の自治を法的に支えるものはなくなった。教員たちも大学の自治に無関心となって、文科省のお達し通りの動きをするようになった。

 文科省は、もうほぼ完全に大学をみずからの支配下に置くようになった。 大学への補助金を削り、もっと欲しければ言うことを聞きなさいという政策をとるようになった。大学はカネを求めて、犬のように尾を振るようになった。犬はワンワンと吠えるが、大学はカネ、カネという。大学は文科省からの天下り官僚を求め、教授にしたり学長にしたりして、もっとも目立つように尾を振りつつけるのだ。犬となった大学は、文科省のイヌを招き入れるのだ。

 そして今度は、大学が自主的に、文科省の方針を率先して実施するなら、もっとカネをあげるぞと嘲笑しながら札束を見せる。大学は、「はい、やらせていただきます」と平身低頭して札束に手を伸ばす。

 今日の『毎日新聞』夕刊の記事。「大学改革:国補助金で促進 最低評価は半減、淘汰加速も」がそれを伝える。

http://mainichi.jp/shimen/news/20150316dde001100072000c.html

 日本は「大日本帝国」の時代よりも後退している。
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【本】松本侑子『恋の蛍』(光文社)

2015-03-16 09:46:49 | 
 太宰治は好まない。若いときから、なぜ太宰に引きよせられる人が多いのかといぶかしく思っていた。

 しかし長じてわかったことがある。
 みずからの死生を凝視する時期が、人にはある。生と死を凝視するなかで、ある者は生の世界に踏み込み生を謳歌する。他方、ある者は死の世界に入り込みながらみずからの生を重いものと見なして生の世界を彷徨し、そして自死を選ぶ。
 思春期のふとした違いから、その後の生は別れて行くのである。太宰は言うまでもなく後者である。思春期は、だから生と死の分岐点でもあるのだ。

 太宰の、死をまといながらの生は、今はそのまま受け入れることができる。

 本書は、太宰と玉川上水に入水した山崎富枝のことを記している。
 山崎は、裕福な家庭に育った「お嬢様」であった。おそらく富栄は、あまりにも恵まれすぎていたために、思春期にあの分岐点を通過していなかったのだろう。太宰のように、死をまといながら彷徨する人間に対する免疫がなかった。太宰の生のなかに、死をはじめて見つめ、そしてその死に魅入られたのである。だから富栄は、太宰という人物を愛しただけではなく、太宰の生にまとわりついていた死に魅入られたのだ。

 もちろん富栄には、死を受容する基盤があった。兄弟の死、そしてフィリピンで戦死した夫の死があった。結婚してすぐに夫はフィリピンへと旅立ち還らぬ人となっていた。
 富栄は、近しい人々が、死の世界に「ある」ことを感じていたのだ。その世界へ飛翔することを止める閾は低かった。

 富栄がみずからの死を凝視する契機をつくったのは、太宰であった。死をまとっていた太宰に接するなかで、みずからの死を凝視していくのである。そしてその死は、生の終着点としてのそれではなく、あえて選びとる死であった。

 太宰を愛するということは、太宰にまとわりついている死をも愛することであったのだ。

 もちろん、富栄にも豊穣な生は用意されていた。だが、戦争というものが、それを拒んだ。もし戦争がなく、夫・奥名修一が戦死しなかったなら、富栄の生は、富栄の父・晴弘の望むとおりのものになっていただろう。
 人間は、残念ながら、生まれる時空を選べない。その時空のなかで生きるしかないのである。

 成虫となった蛍の寿命は短い。その短い間に恋の相手をさがさなければならない。蛍は、生きている間、ひたすら恋を求める。蛍はひとりで生きていくことができないようだ。
人間もまた同じ・・・・?

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