
展示資料の総数は71点はほぼ仏像と神像であり、秘仏や新発見の仏像の初公開を含めて、三重県内では16年ぶりの本格的な仏像展だといわれます。
三重県というと思い浮かぶのは伊勢神宮を始めとする神の社ということになりますが、今回の仏像展を観ると三重県が実は古くから仏教の文化の影響が強い土地だったことが分かります。
和歌山からの熊野古道の影響もあるにはあるのでしょうけど、奈良から伊勢神宮までの道中は往来の多さと共に文化の往来もあったことが想定されます。

滋賀から奈良へ行く場合、甲賀市信楽~宇治田原~木津川~奈良のルートになりますが、三重へは甲賀土山~伊賀~津のルートとなる。
ということは、甲賀市を経由して奈良と三重(特に伊賀)は大きく言えば近い距離にあるといえる場所にあり、別の言い方をすると奈良からこのルートをたどれば松阪を経て伊勢神宮に到着するとも言えます。
都と伊勢神宮をつなぐルート上にはおそらく数多くの寺院が造営されたことが想像され、実際に三重県で重要文化財に指定されている仏像の数は全国で9番目の多さ(67点)であるといいます。
美術展図録の総論によると、三重県での宗派の分布は、北勢は浄土真宗・中勢は真宗高田派と天台真盛宗、松阪は浄土宗で伊賀は天台・真言宗、東紀州は曹洞宗が比較的多いとあります。
また、寺院址(廃寺)から発見された白鵬・奈良時代の塼仏(せんぶつ)の出土数は大阪に次ぐ多さであるといい、古い時代から仏教文化が栄えていたことが伺えます。

展覧会では「第1章 白鵬・奈良時代」「第2章 平安時代前期」「第3章 平安時代後期(十世紀)「第4章 同(十一・一二世紀)」を中心に、「第5章 鎌倉時代」「第6章 南北朝以降」と仏像に取り囲まれてしまうような構成となっています。
「第1章 白鵬・奈良時代」の「誕生釈迦仏」や古墳出土の「押出仏」・廃寺出土の「塼仏」・「仏頭」などは見る機会があまりない文化財ですので今回の仏像展は大変貴重だったと思います。
また夏見廃寺出土の螺髪はその大きさから2m以上の仏像があったことが推定できるとあり、かなり大きな仏像が白鵬時代から三重県に造像されていたことが伺われます。
平安時代前期の「阿弥陀如来立像」は、亀山市の慈恩寺の御本尊で像高161.9cm・一木造の漆箔の重量感溢れる仏像です。
三重の9世紀を代表する仏像だとされ、重要文化財に指定されている重厚な如来像です。

平安時代後期の「薬師如来坐像」は、明治初年に廃寺となった三津定泉寺の旧仏で現在は伊勢市の明星寺の収蔵庫に安置される仏像だそうです。
興味深いのは、この仏像の発願者が神宮神官を務めた当地の豪族の荒木田氏と度会氏を示す墨書銘があるということで、平安期の仏教と神社の関係が想像される仏像です。

同じく平安時代後期の「薬師如来座像及び両脇侍」は、真言宗「薬師堂」の本尊として伝来したもので、明治に廃寺になったあとに津市の光善寺に合併されたといいます。
この薬師三尊は県内最古の三尊像だとされ、重厚で重みのある薬師如来に合わせてか、やや腰をひねった日光・月光如来もたくましい菩薩との印象を受ける。

伊賀市勝因寺の「虚空菩薩坐像」は、通常秘仏の仏像が今回の仏像展で特別公開となっていました。
衣文は浅く彫られており、くっきりと彫られた顔は凛々しい。
素地であるためカヤ材の美しさがあるが、当初から素地だったかどうかは不明だといいます。

初公開とされているのが快慶作の「阿弥陀如来立像」。
松阪市の安楽寺の仏像で、足柄に「巧匠 法眼快慶」の墨書銘が確認されたそうです。
快慶の阿弥陀仏の幾つかを見ましたが、仏像の大きさといい顔の表情といい快慶の阿弥陀の良さが感じ取れる仏像だと思います。

展覧会のフィーナーレとあるのは4躰の「円空仏」になる。
「大日如来坐像(浜城観音堂)」「聖観音立像(三蔵寺)」「文殊菩薩坐像(中山寺)」が展示され、薬師如来立像と阿弥陀如来立像が表裏に彫られた両面仏(明福寺)」には思わず息を呑みます。
円空仏は愛知県・岐阜県に集中してはいるが、円空が志摩地区に滞在していたともされ、生涯で12万体の仏像を彫った円空仏が三重にあるのは不思議ではない。
特に三重郡菰野町の明福寺の「両面仏」は円空の良さが伝わる素晴らしい仏像で、後方に鏡を置いて両面が見えるようになっている展示方法も見事でした。
ところで、この日の三重県総合博物館では「基本展示室」が無料公開となっていましたので合わせて拝観しました。
基本展示室は「三重の多様で豊かな自然」「三重をめぐる人・モノ・文化の交流史」「自然とともに生きる」の3つのコーナーがあり、南北の生物相と東西の文化がからみあった三重の自然・文化の魅力が満載です。

エントランスには「ミエゾウ(ステゴドン・ミエンシス)」という古代の象の化石が展示。
来訪先の博物館に好んで行くのは、やはりその土地独特の自然や文化に触れられることが魅力なのかもしれません。
MieMu(三重県総合博物館)の開設5周年の記念特別展『三重の仏像展~白鳳仏から円空まで~』では、古都・「奈良や京都」の文化が流入した独自の仏像文化がよく分かる特別展でした。
仏像展での展示仏のあまりの多さに帰り道、頭の中で仏像が渦を巻いていましたよ。