僕はびわ湖のカイツブリ

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“男のためのガーデニング”改め

ボーダレス・エリア近江八幡芸術祭『ちかくのまち』③~ボーダレス・アートミュージアムNO-MA~

2020-11-10 05:35:55 | アート・ライブ・読書
 近江八幡を舞台にボーダレスな芸術祭『ちかくのまち』は、10組のアーティストの作品が4会場で展示されており、3回目となる芸術祭では「NO-MA美術館」と「奥村家」へ訪れました。
プリミティブな立体造形作品が展示された「よしきりの池」、ユーモラスな農夫アートのカカシが並ぶ「B&G 海洋センター 」は屋外展示でしたが、残りの2会場は旧町屋での展示となります。

「NO-MA美術館」では、映像や触図・音声などアート空間としての演出がされており、その手法の目的には障がいのある人の鑑賞をサポートする意味があるといいます。
作家自体の作品も進化すれば、作家同士のコラボレーションによる新たな魅力の創造。展示方法も進化し続けているというのが、まず最初の感想です。



最初のコーナーに展示されているのは杉浦篤さんの写真の作品。
写真といっても自分でカメラで撮影したものではなく、旅先での風景や記念写真など思い入れのある作品を触り続けた結果、劣化・摩耗し変色して写真とは別の物へと形を変えている。


杉浦篤 Untitled

上の写真は父の墓がある霊園で撮った写真だといい、右に写る女性は杉浦さんの手を握っていて、杉浦さんの母だと思われる女性とされている。
写真の中の世界や記憶に愛おしさを感じるあまり、撫で続けているのかと想像してしまいますが、実際はのんびりとした時間を過ごす時に、淡々と触り続けているのだといいます。



展示場所の一角には8枚の作品が展示され、面白いのは手をかざして映像を操作するセンサーが設置されていたこと。
センサーにかざした手を上へ動かすと映像が拡大され、左右に動かすと左右の作品の映像へと移動できる。
このような視覚に訴えかける装置がある一方で、目の見えない方や見えづらい人が鑑賞できるように触図化されたものや、写真に写るもの(枯葉)などのハンズオン展示もされている。



思わず魅入ってしまったのは次のヤマガミユキヒロさんの「キャンバス・プロジェクション」の作品。
いろいろな場所(例えば街や駅のホームや浅草寺や工場)を鉛筆で描写し、同じ視線で撮影した映像を重ねるという手法で造られた作品です。

しかも映像はその場所の24時間を切り取ったもので、誰もいない灰色の街が始発電車が動きだすと人も動き出し、工場が稼働して観光客が動き出していく。
夜になると工場の煙突の煙は消え、街には人が溢れだし、終電と共にひとけはなくなり、街も眠りだす。


ヤマガミユキヒロ《location huntion》

絵に重ねられた映像にはサンプリングした音声も重ねられており、ぼんやりと人が動く姿から受ける印象は、人の営みの虚ろさでした。
こうした作品を見ていると、現実世界は実は一つだけではなく、同じ時間軸で別の現実世界があるような錯覚を覚えてしまいます。





ドローイングは、新宿・尼崎・高崎・京都・神戸三宮など全11点があり、それぞれ全く異質な場所で同じ時間が進んでいき、同じ日常が翌日も繰り返される。
長椅子に座って作品世界でいう2日間を過ごしましたが、不思議な感覚の余韻が残ります。





「よしきりの池」の湿地に陶芸の「壺」を展示されていた武友義樹さんは、NO-MA美術館ではダンサー・舞踏家の福留麻里さんとのコラボでのインスタレーションでの展示です。
武友さんは3歳の時から紐を振り続ける行為を続けて、50年後の今もなお5m以上の紐を振り続けられているといいます。

展示スペースには3台のモニターが設置されていて、メインは武友さんが紐を振ったり施設で過ごす姿を映し、左のモニターには紐につける道具を造る様子や線で描いた絵を映す。
右には足のみが映し出されてステップを刻んでいる。会場には福留さんが5日間、武友さんの暮らす施設に滞在して、武友さんの感覚や行為を短い言葉で抽出した音声が流れる。


武友義樹 ちょうどよい結び目をつくる-武友さんのサークル

会場のモニターをつなぐコードはスネーク・ホース状態となっているが、これは紐やつながりを表現しているといいます。
2階の窓から蔵へとつながる庭には武友さんの「壺」も展示されている。



最後は今回の芸術祭のメインキャラクターともなっている「美保さん」の作者・平野智之さんの作品やビデオが展示されていました。
「美保さん」とは平野さんが通う福祉施設でかつて支援員として働いていた女性がモデルだといい、美保さんを主人公とした物語が絵で描かれ、絵の上に書かれた文字があるのは字幕だという。
美保さんには超現実的な出来事が次々と起こり、ストーリー?が展開される。


平野智之 《美保さんシリーズ番外編》

ビデオでは平野さんが近江八幡を訪れて、名所を観光して回る姿の記録が映され、もう一つのモニターには絵の物語が映し出されている。
会場にはボード化された美保さんや美保さん人形が展示されており、近江八幡の旧市街地や安土駅周辺の店舗10店では「美保さんガイド」も聞けるそうです。



平野さんが近江八幡を訪れた時の映像を、平野さんは「近畿イベント」と呼んでいるらしいですが、語り口と物語の「字幕」が同じ口調だったのも面白い。
なんか眺めているうちに「美保さん」に愛着を感じてきてしまいますね。



次の「奥村家住宅」では魲万里絵さんの作品が展示されています。
奥村家では魲万里絵の絵画と切り絵の谷澤紗和子のコラボ作品が見られということですので、どんな作品になっているのか楽しみにしながら奥村家へと向かいます。


コメント
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