僕はびわ湖のカイツブリ

滋賀県の風景・野鳥・蝶・花などの自然をメインに何でもありです。
“男のためのガーデニング”改め

ボーダレス・エリア近江八幡芸術祭『ちかくのまち』④~奥村家住宅~

2020-11-12 18:13:13 | アート・ライブ・読書
 「よしきりの池」「B&G 海洋センター 」「NO-MA美術館」と近江八幡(安土)の4カ所で展開されてきたボーダレス・エリア近江八幡芸術祭『ちかくのまち』も奥村家が最後の会場となりました。
『ちかくのまち』は「知覚のまち」の意があるといい、これまで訪れた3会場では、まさに知覚を刺激するアート作品と出会うことが出来ました。

最後に訪れた奥村家では「魲万里絵 × 谷澤紗和子」さんのコラボレーション、庭園を利用して展示された「米田文」さんの粘土作品、蔵では「ドゥイ・プトロ×ナワ・トゥンガル」さんの作品がインドネシアより届く。
4会場それぞれの特色が感じられる展示からは、作家の作品の力と企画・演出の見事さの両方が感じられ、近江八幡にアートの魅力が渦巻いているような印象を受けました。



魲万里絵さんは、ふくよかな女性の肉体に乳房や性器が剥き出しになったような絵画を描かれ、エロティックともグロテスクとも言える作品には、全てを引き裂くかの如く鋏が描かれていることがある。
和室にあがってすぐの部屋にはやや小サイズの絵があり、原色の多い色彩で描かれた精密な絵が並びます。



魲さんが絵に付けるタイトルは、ダイナミックで精密な絵とは裏腹に思わず笑みを浮かべてしまうものがよくあります。
今回は絵のタイトルは分からなかったのですが、以下3枚の絵からは欲望.畏れ.回帰.嫌悪.緊迫.衝動...適切な言葉は見つからず。


魲万里絵

アールブリュットに分類される作品には、ミニマムな反復というのが一つの特徴であると言えるとはいえ、魲さんの作品にはエネルギーに埋め尽くされたかのように圧倒される。
人間の内面を曝け出すとこのような世界があるのか?と感じ入ってしまう作品群でした。





今回の芸術祭で魲万里絵さんとのコラボを実現された谷澤紗和子さんは、切り絵を使ったインスタレーションや、貝殻と土を焼成したオブジェなどで活躍される作家で、今回は切り絵とコラボレーションでの出品でした。
「妄想力の拡張」をテーマにされているといい、《NO》という作品ではオノ・ヨーコの《YES》を、女性がダンスしているかの作品はアンリ・マティス《ダンス》へのオマージュだといいます。




谷澤紗和子

では、魲万里絵さんとた谷澤紗和子さんがコラボしたらどんな作品になるのでしょう。
昨年の芸術祭で個別に出品されていた二人を結び付けたのは、この芸術祭のキュレーターで2人の共同制作は「文通」という形で行われたといいます。
奥村家のキャプションには、“本芸術祭での展示は終着点ではなく、一つの通過点であり、今時点の2人の重なりの具現化である”とされており、今後の進化が楽しみになるコラボ作品です。




魲万里絵 × 谷澤紗和子

奥村家は、江戸時代後期に建てられ、重要伝統的建造物群保存地区に位置する町屋です。
かつては呉服屋を営まれていたといい、母屋と蔵の間にある広い庭園は近江商人の町屋の名残りを残しています。



庭園の各所に展示されているのは、金沢市を拠点として活動されている陶芸家・米田文さんの増殖するかのイメージの陶芸作品です。
米田さんが金沢卯辰山工芸工房に在籍していた1998年からの2年間製作していたのが「うずまきさん」というシリーズだとされています。


米田文≪うずまきさん≫

本来は九谷焼の作家になりますが、家や人など日常的な題材をテーマにされているといい、奥村家に展示されている作品群は、かなり実験的な作品を造られていた頃のもの、となるのかも知れません。
小さな渦が折り重なるように増殖している作品は、自然が造った造形とも精神世界の造形とも取りようは見た人の感性によって、捉え方が変わりそうな作品群です。





庭園に展示された米田さんの作品を見て回っていると、奥にある蔵の中で映像が映し出されているのに気付く。
蔵の中での展示はインドネシアのドゥイ・プトロ×ナワ・トゥンガルさんのコラボレーション作品でした。


ドゥイ・プトロ×ナワ・トゥンガル

ドゥイ・プトロさんは、インドネシア(ジャワ島やバリ島など)で行われるワヤン・クリという影絵芝居に登場する人形や女性像を描く作家だといいます。
幼少の頃、、実家の近くで開かれたワヤンを観たかったが叶わなかったという苦い経験から、観られないのであれば自分で生み出そうという発想がモチベーションになったと紹介されています。

弟のナワ・トゥンガルさんは、インドネシア アール・ブリュット ファンデーションを立ち上げて活動を行い、兄の作品を軸に映像を作成したのが、今回展示の映像作品だという。
この映像作品にはインドネシアがパンデミックから解放されることへの希望が込められているといい、映像に登場するのはコロナ防護服に身を包んだ人物と絵が中心となる。



巨大な壁画の壁に、防護服の人が1枚1枚絵を掛けていき、作品は完成されていく。
それはワヤン・クリでの操り人形の影絵が、色彩豊かで特徴的なキャラクターを描いた絵になり替わって芝居を演じているようでもある。



本場のワヤン・クリではガムランが奏でられると聞きますが、この映像はCOVID-19からの解放を訴えていることから、抑揚の少ない静かな音楽が使われている。
エンディング・ロール には言葉が書き込まれており、パンディミックへのメッセージとなっている。



「生めよ、増えよ、地に満ちよ、地を従わせよ 海の魚と空の鳥と、地に動くすべての生き物を治めよ」
「大自然はいつも人間を優しく撫でる」

「新型コロナウィルスの大流行は、小さな後押しでしかない
  人間が悔い改められるようにするための
  人間が方向性を見直すようにするための」



「ちかくのまち」はまさに「知覚のまち」。
4会場10組のアーティストの作品は、多様性に富み意外性もはらんだ興味深い展覧会でした。
当方は3回に分けて訪れましたが、じっくり見ようとすると1回では無理かもしれませんね。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする