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成功した近江商人が多く住んでいた五個荘の町で展示される江戸時代からのひな人形は見どころが多く、町自体の佇まいにも魅力があります。
近江商人の家の主屋には伝統的な日本家屋の良さと、明治・大正のモダンさが入り混じった建築物の優雅さも五個荘の豪商邸ならではのもの。
東近江市五個荘の「商家に伝わるひな人形めぐり」では豪商が所有していたひな人形もさることながら、「人形作家・東之湖さんの創作ひな人形」は、様式や伝統を踏襲しつつも艶やかで幻想的な空間を創造された作品です。
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五個荘金堂町には重要文化財の本堂を構えた弘誓寺など寺院が多く、大きな鳥居のある神社も多い街並みからは、この町から近江国の外へ出て商いで成功した商人たちの裕福さと信仰がみえる。
通りに面して流れる川にはカラフルな鯉が泳ぎ、竹で作られた舟にはひな人形が乗ってプカリプカリと浮いていて風情が感じられます。
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五個荘では公開されている近江商人屋敷や博物館が幾つかありますが、そのうち3つの近江商人屋敷の共通券を購入してまずは「外村繁邸」へと入る。
外村繁家は東京日本橋と高田馬場で呉服木綿問屋を開いて財を成した家といい、一時当主を継いだ外村繁は私小説作家として評価されているといいます。
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庭園の一角にはひな人形が飾られ、心落ち着く光景が広がる。
邸宅を取り巻くように造園された広い庭園には桃山時代の茶人“古田織部”が草案したものとも言われる「織部灯籠」が置かれている。
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庭園に複数置かれているのは「陶狸」という少し変わった焼き物の狸。
陶狸は、“大きな目で社会情勢を見渡せるように”“太っ腹な精神を持ち、タヌキ(他抜き)のごとく秀でた人になるように”との願いが込められているといいます。
家や蔵を守る守護狸として置かれた個性的な狸です。
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「外村繁邸」の隣にあるのは外村家の本家筋にあたる「外村宇兵衛邸」で、東京・横浜・京都・福井で呉服類の販売で商圏を広げていた方の家だそうです。
2つの外村家は基本的に同じような造りとなっているため家の中にいるとやや混同してしまいますが、両者とも大きな主屋を構え、立派な蔵・広い水屋をしつらえた見事な商人屋敷です。
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江戸時代の「有職雛」の雅さを伝えるひな人形もありましたが、「御殿飾り」と呼ばれる宮中を再現したかのようなひな人形も豪奢なもの。
寛永の頃のものとされる「古今雛御殿飾り」では仕える女官の姿も詳細に造られていて、御殿の下には武士が控える。
江戸時代にあっても武士は公家の下に位置付けられていたのでしょう。
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外村宇兵衛邸の庭園はかつて“神崎郡内一番の庭”と呼ばれていたといい、一時半分ほどが取り壊されていたといいますが、明治の時代に復元されたといいます。
庭の中央にある池の向こうには「茶屋」があり、そこにもひな人形の姿が飾られています。
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最後に訪れた「中江準五郎邸」には「人形師・東之湖」さんのひな人形が展示されているので向かう足取りも軽くなる。
中江準五郎は呉服店に始まり、朝鮮半島や中国大陸で展開した“三中井百貨店”を20余店舗経営し、百貨店王と呼ばれた一族の方の本宅だそうです。
邸宅内に入るとまず目に飛び込んでくるのは東之湖さんの「清湖雛物語」の艶やかな人形たちの織り成す幻想的な世界。
意図が太く曲げにくいという「近江の麻」で作った雛人形は、2006年から毎年シリーズ化しているとい、その世界は毎年進化している。
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主屋の和室に拡がる東之湖さんの人形群には圧倒されてしまうとしか言いようがなく、その世界観に見惚れてしまいます。
部屋の右に飾り付けられているのは「近江八景 唐崎夜雨」と名付けられた人形と、桜色に染められた「十人囃子」。
桜の華やかさと儚さの魅力に溢れている。
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空間は「清湖雛」を中心にして、白砂の琵琶湖と「近江八景」を描き出し、四方の守り神が湖北・湖西・湖南・湖東を守護している。
若い頃に滋賀県に転居して、五個荘町に店舗兼工房を構えた東之湖さんの湖東・滋賀への想いが感じられる作品ですね。
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今年の「商家に伝わるひな人形めぐり」では「清湖雛」の展示と併せて「即位礼正殿の儀」と「令和雛」が特別展示です。
「即位礼正殿の儀」で「高御座」と「御帳台」の幕が開かれて、装束姿の天皇陛下と皇后雅子さまが姿を現した光景が思い出されます。
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もう一組の「令和雛」は、5月行われた大嘗祭での天皇皇后をイメージして造られた人形を公開。
あくまでも個人的な意見ですが、天皇家が万人に親しまれるようになったのは上皇明仁さまと上皇后の美智子さまのご尽力のおかげなのかもしれないと思っています。
昭和の時代にはあまりにも多くのことがあり過ぎたのでしょう。
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中江準五郎邸には琵琶湖を模った庭園がありますので、池泉回遊式庭園一回りして今年の「商家に伝わるひな人形めぐり」を終わりとする。
近江商人の邸宅は、主は県外・国外で商いをしていたため、邸宅は妻が仕切り使用人をまとめていたといいます。
たまの帰郷をした主は庭園を眺めながらゆっくりとくつろいで英気を養ったのでしょう。
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訪れる度に、1躰づつ増加していく東之湖さんの人形が見れるのは、この季節の楽しみになってきています。
今年は新型コロナウィルスの影響でイベント等は中止となり、団体客のキャンセルも相次いだそうです。
来年の開催時は是非とも盛り返していけるといいですね。
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