僕はびわ湖のカイツブリ

滋賀県の風景・野鳥・蝶・花などの自然をメインに何でもありです。
“男のためのガーデニング”改め

川内倫子写真展|やまなみ|自分が自分であるだけでいい場所~湖のスコーレ~

2022-04-13 06:08:08 | アート・ライブ・読書
 長浜市街地の旧パウワースの跡地にオープンした「湖(うみ)のスコーレ」には発酵をテーマとした醸造室・チーズ製造室・味噌熟成庫があり、家具やファッション・生活道具・アンティークの並ぶストアが人気を集めているようです。
当方も何度か「湖のスコーレ」へ立ち寄っていますが、入るのはいつも裏側の入口から入り、探しても手に入らないような古書が並ぶ書籍コーナーやアールブリュット作品を展示するギャラリーを見て回っています。

「湖のスコーレ」がオープンした最初の企画展は、「やまなみ工房」の榎本高士さんの美術展でしたが、第二回目の企画展は川内倫子さんの写真展とやまなみ工房の造形を主とした美術展でした。
写真家の川内倫子さんは、2018年からの約1年半、甲賀市にある「やまなみ工房」で日常的な生活や風景を撮られていた方で、写真家としては木村伊兵衛写真賞を受賞をされています。



川内倫子さんの写真と「やまなみ工房」の作家とのコラボは過去にも見たことがあり、つい造形作品の方に目が行ってしまった記憶がありますが、今回も「やまなみ工房」の有名作家の作品に目が行ってしまいました。
「やまなみ工房」の建物が写ったモニターの前には「正巳地蔵」や「菜穂子地蔵」「オニ」「目・目・鼻・口」などの造形作品が並び、ギャラリーに入った瞬間に圧倒されます。



山際正己さんの「正巳地蔵」は、どの地蔵さんも笑っているが、少しづつ表情が違います。
「やまなみ工房」の紹介文によると、家事や工房の掃除・珈琲の接客や古新聞の回収など忙しい日常の中で、彼にしか分からない今だ!という時だけ粘土に向かい、すさまじい勢いで作品を作るのだという。



「正巳地蔵」以外にも「オニ」というシリーズがあるようですが、愛嬌のあるお地蔵さんの作風とは違って、感情が迸るような力強さと異形の生物然とした勢いが感じられます。
アールブリュットとカテゴリーされる作品には、プリミティブな印象や何か未知の生き物のような魅力を感じます。



「オニ」と並ぶオブジェは吉川秀昭さんの「目・目・鼻・口」だと思いますが、これだけ並ぶと誰にもその存在を知られていない未開の地に住む人間の原始信仰のような雰囲気を想像してしまいます。
「目・目・鼻・口」はシンボリックなモニュメントのようであり、近代陶芸にもあるかもしれないと思ってしまうようなシンプルながら独創性がありますね。



同じお地蔵さんでも「正巳地蔵」と大原菜穂子さんの「菜穂子地蔵」とでは全く違います。
ユーモラスに笑っている「正巳地蔵」に対して、「菜穂子地蔵」も笑っているのは同じでも優しさやはにかみを感じるような静かな笑顔です。
こうして混じり合うように展示されると2つのお地蔵さんの魅力が広がります。後方にはオニが控えている訳ですから、見ている方はお地蔵さんたちに守ってもらっている心境になります。



得体のしれない生き物のような作品は、鎌江一美さんの粘土作品。
「やまなみ工房」の紹介では鎌江さんは“恋をしている彼女”とされていて、憧れの人と話すため、作品を見てもらうため、そして褒めてもらう想いが創作に込められているという。



粘土で原型を作ると、その表面全てを細かい米粒状の陶土を丹念に埋め込んでいって作品が完成されていくという。
埋め込まれていった粒に覆いつくされた作品は、異形の肌感覚を持った質感に覆われていて、混沌から生まれ出た生命のような印象さえ受けます。





滋賀県立美術館での「人間の才能 生みだすことと生きること」でも展示されていた井村ももかさんは、カラフルな布に糸を縫い付けた作品を作られます。
今回は12個の作品が展示されていましたが、作品が積み上げられるように展示されることの多い井村さんの作品にしては少し違和感のある展示方法でした。



壁には川内倫子さんの写真が展示されている。
川内さんは「やまなみ工房」で1年半の間、撮影を続けられていたといい、どの写真も作家たちが作品制作に没頭する様子を、自然な日常の姿で撮られています。



中の人達の一員になったように打ち解けていないと、こういう自然な姿の写真は撮らしてはもらえないのではないかと勝手に推測します。
川内倫子さんの写真は、たねやグループの冊子『La Collina(ラ コリーナ)』で偶然見たのが最初で、2019年に「日野まちかど感応館」で開催された「いのちといのち」展に行って以来です。

ギャラリー入口に貼られた川内さんの言葉を紹介します。
“いつも自分以外の誰かと比べて自分を追い込んだり、過去の失敗を悔やんで未來を憂い、今現在に自分がいなかったりする。”
“毎回やまなみ工房に来るといつのまにかその闇から逃れ、なんだかすっきりと洗われたような気持ちになる。”
“目の前の人とただ笑い、制作に集中している姿を見て自分も一緒に無心になり、自分のなかの宇宙を再確認する。”



湖のスコーレを出て市街地の町並みを歩いていて面白いマンホールの蓋を発見しました。
合併前の旧長浜市のマンホールの蓋は豊臣秀吉にあやかった「千成瓢箪」と思っていましたが、これは石田三成の旗印の「大一大万大吉」をモチーフにしています。

石田三成は長浜市出身の武将でしたが、江戸時代以降は勝者によって作られた歴史に従って、悪者として語られてきた人物でした。
近年になって光成の再評価が進んでおり、「大一大万大吉」の旗印にも光成の意思が感じられます。
マンホールは左右に光成の兜を模した脇立、旗印に居城であった佐和山城、上には下がり藤。





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