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「金勝山 浄厳院」と現代美術展「2020 AT ARTS EXHIBITION」~滋賀県近江八幡市安土~

2020-11-02 17:18:18 | アート・ライブ・読書
 織田信長が安土城を築き、町を開いた安土にある「金勝山 浄厳院」では、寺院の中で現代美術展「2020 AT ARTS EXHIBITION」が開催されています。
出展されている作家は、勝山信隆さん・西村のんきさん・綿野佐世さん・藤野裕美子さんの4名の作品と、コロナ禍で来日できなかった海外の作家の映像作品と見応えはたっぷりです。
浄厳院での展示場所は“書院・渡り廊下・庫裡、観音堂”の各所で、もちろん本堂の拝観も出来ます。

浄厳院の本堂には定朝様の丈六「木造阿弥陀如来坐像」が御本尊として祀られているものの、通常非公開のためこれまで拝観出来なかった仏像の一つでした。
今回の美術展では、「阿弥陀如来座像」を始めとした諸仏が拝観できる上に、現代美術も楽しめる企画ですので両方見たい当方にとっては願ったり叶ったり。



勝山さんと西村さんは浄厳院に来山されており、各々の作品が展示されている部屋では作品の説明をしていただけました。
庫裡には勝山信隆さんの作品が展示されていたのですが、聞いてみると勝山さんは浄厳院の生まれで現在は特別支援学校に勤務されているそうです。

支援学校で障がいのある子供たちに接している影響もあり、画材として使われているのは食用のオブラート。
オブラートに描画や印刷をされたものを紗の布に乗せ、水に浸して漉くという手法のようです。

脆い性質のオブラートから、亀裂や剥がれや素材の流れなどを生み出すといいますから、想定通りと想定外の両方が混在する作品になるのかと思います。
作品の制作手法に関して普通の絵との違いは、料理の調理方法での煮る焼く炊くなどの違いだけで基本は同じものともいわれていました。



3枚の絵の一番右の絵の下には創作風景を記録した映像が流れていて、水の入った箱の中でオブラートに描いた絵を並べながら水を切っていく工程がよく分かりました。
何に近いかというと、紙漉きの作業に近いのかもしれない。
絵はオブラートゆえに形が崩れている部分や亀裂の入った部分があることによって絵に強い個性が感じられ、勝山さんが話されていた「諸行無常」を具現した作品となっているように感じます。



さて、気になるのは床の間に横たわる人形のようなもの。
作品は「大きな袋と蝶々」と題され、学校の理科室にあるような骨格模型にスポンジを巻き、シフォンでくるんだ作品で、床の間に展示されているのもイメージが高まり効果的でした。

触ると柔らかいスポンジ(肉)の中に骨(骨格模型)が感じられ、滅びることを美しさとして表現されているようにも受け取れる。
挨拶文に“すべてのものは膨張し収縮し変容し、そしてやがては崩壊します。”とあり、永遠のものは存在しないゆえに滅びにも美があるということになるのでしょうか。



人形のオブジェの上や畳の上にバラまかれているのは蝶をイメージしたもの。ある意味で散華のようにも受け取れる。
靴下に付くので取ろうとしていると、そのまま歩いてもらって寺の中にまき散らして欲しいとのことでしたので、そのままくっ付けて歩いてまき散らすことになりました。
所々に蝶を落として、最後の1枚は帰り際に靴を履く時まで残っていました。

次に書院に向かうとまず廊下に西村のんきさんの大きな絵が見えてきます。
絵は廊下の突き当たりに2枚と廊下の角に2枚。2枚は女性の絵であとの2枚は仏頭です。



話を聞いてみると西村さんも特別支援学校に勤務されていたといい、勝山さんとは同僚だった縁があって美術展に参加しているといわれていました。
絵は光の入る場所に展示されているため、自然光によって絵の見え方が変わるといい、自然光を使った表現手法になっているようです。



西村さんの言葉を借りると“体力に優れたネアンデルタール人からホモソピエンスの時代となったのは、コミュニケーション能力の差があったが、これから人類はどんな進化を遂げていくかが重要”。
確かに歴史が語る2000年間、同じことの繰り返してきた歴史がありますので、新たな社会性のようなものが求められている時代ともいえます。

書院の中へ入るとそこに広がるのは闇と光と音の世界。
前にある作品は透かしの絵の上に映像を重ねた幻想的ともいえる作品で、光が当たる側からも光が透ける側からも絵が見え、その表裏は同じもののようで違った作品になっている。






書院の奥の間は、かつて信長が天皇を招待するために設計された部屋だとされ、欄間には結界が張られているという。
巨大な絵は小学校で展示しようとした時に部屋の高さが足りなかったというほどの巨大な作品で、地中海をイメージした水中に女性が横たわっている作品です。

海から生み出されるものを表現されているといい、絶えず水音(波)の音が流れるヒーリング空間が拡がる。
流れ続ける水音は、みさき公園で自身が録音したものだといい、美術展のテーマである『間』の世界が堪能できます。

“畳に座って見た方がいい。見ていると日本の障壁画の文化が分かってくる。”、“また自分の影が写り込むことで絵が違ったものにも見えてくる”と勧められて、奥の間で正座して『間』の世界を味わう。
畳の上に座って見る「闇と光と自然の音、映像の動き」の世界を寺院の広間で見ると、美術館では味わえない格別のイメージが広がり、いい美術展だったと記憶に残るなぁと感慨に耽ります。



今回の美術展の舞台となった「浄厳院」は、もとは佐々木六角氏が建立した天台宗寺院の威徳院「慈恩寺」だとされますが、1471年と1570年の2度の兵乱と佐々木六角氏の敗退により衰退したといいます。
1577年に織田信長が金勝山で行った鷹狩りの際に高徳に感銘したという僧・応誉明感を安土に招き「金勝山 浄厳院」の寺名で、応誉明感を開山とする浄土宗の寺院として再興。



重要文化財に指定されている「浄厳院楼門」は、天文年間(1532~1555年)に慈恩寺の楼門として建立されたものを、浄厳院の楼門として遺されたものだといいます。
建立時期は楼門に祀られている仁王像の岩座墨書から、慈恩寺の建物と分かったのだといいます。

仁王像は力強い力感にあふれており、傷みつつあるその姿からは古仏の美しさが伝わります。
楼閣からは平成の時代に2躰の僧形座像(1躰は1613年のものと判明)が発見され、本堂に2躰が祀られていましたが、痛みはあるものの(あるゆえの)美を感じるものでした。





本堂も重要文化財に指定されており、浄厳院が再興された時に近江八幡多賀村の「興隆寺」から移建されたものだとされます。
浄厳院は、浄土宗と法華宗が宗教論争「安土問答(安土衆論)」を行った場所で、信長が法華宗を弾圧するために工作したという説もある法論です。
安土問答に勝利した浄土宗が喜んで鉦や太鼓を叩きながら念仏を唱えたのが、今に伝わる「かちどき念仏」の法要の始まりだといいます。



本堂でも副住職の方から詳しい説明を受けることができ、内陣での御本尊拝観や奥内陣に祀られた仏像の数々を拝観することが叶いました。

「信長座像(1613年)」、楼閣で発見された「僧形座像」2躰。
「応誉商人座像」、「法然座像」と「善道大師座像」、「増長天」と「持国天?」が並ぶ中で、碁盤の上に立つ「薬師如来立像」が興味深い。
特に関心を魅かれたのが清凉寺式の「阿弥陀如来立像(南北朝期)」で、浄厳院に清凉寺式があるのはあまり知られていないかもしれない。



念願の対面となった「阿弥陀如来坐像」は、天正6年(1578年)に愛知郡二階堂から移したものとされる平安期の丈六仏(像高2.73m)で重要文化財に指定されている。
定朝様の丸く穏やかな表情をされ、堂々とした姿からは極楽浄土を想像させる威厳がある。

この阿弥陀如来で特筆されるのは、仏像本体・光背・天蓋・蓮弁の全てが揃って残されていること。
光背には大日如来を頂点として、左右6躰づつの飛天が透かし彫りになっており、天蓋も美しい。



浄厳院には数々の寺宝があったようですが、大半の宝物と文書類は博物館に寄託されているので、写真での説明となる。
写真の中に見覚えのある寺宝がありましたので記憶をたどると、先月訪れた栗東歴史民俗博物館での「栗太郡の神・仏 祈りのかがやき」で実物を見ていたことを思い出す。

「厨子入銀造阿弥陀如来立像(鎌倉期・重文)」の蒔絵の美しさ、「火焔宝珠嵌装舎利厨子(室町期・重文)」、「日吉山王曼荼羅図(鎌倉期・重文)」。印象的な宝物ばかりです。
絹本著色「観経変相図 (南北朝期)」は展示時期の違いにより見ていませんが、極楽浄土の世界を描いた周辺にコマ送りのように描かれた「観無量寿経」の絵解きについても説明していただけました。

下は書院から見た「勅使門」。
信長は天皇を招いた時にこの門から入山してもらい、書院へお通しするよう考えていたようですが、結局それは叶わなかったことになります。



浄厳院は御本尊の丈六阿弥陀、清凉寺式阿弥陀、碁盤に乗る薬師如来と想像以上の仏像の宝庫でした。
現代美術展「2020 AT ARTS EXHIBITION」に出品されている作家さんは初めて知った方ばかりですが、感情移入しやすい世界観の作品が多かったと思います。

2人の作家さんにいろいろ説明いただき、作品を受け入れやすく見ることが出来たのも良かったことの一つです。
寺院を始めとする歴史ある日本建築の中で見る現代アートの試みが増えてきているのは楽しみなことですし、これからも期待が高まる企画だと思います。





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