hiyamizu's blog

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重松清「ビタミンF」を読む

2009年12月04日 | 読書2

重松清著「ビタミンF」2000年8月、新潮社発行を読んだ。

宣伝文句はこうだ。

このビタミンは心に効きます。疲れた時にどうぞ。「家族小説」の最高峰。直木賞受賞作!
38歳、いつの間にか「昔」や「若い頃」といった言葉に抵抗感がなくなった。40歳、中学一年生の息子としっくりいかない。妻の入院中、どう過ごせばいいのやら。36歳、「離婚してもいいけど」、妻が最近そう呟いた……。一時の輝きを失い、人生の“中途半端”な時期に差し掛かった人たちに贈るエール。「また、がんばってみるか」、心の内で、こっそり呟きたくなる短編七編。直木賞受賞作。



夫は40歳前後、子供たちはまだ中学生以下で父親とは距離が出来始めている。妻ともすれ違いが多い。そんな中に、かすかに「ともしび」を見せる著者の家庭小説確立編。

1999年3月から2000年7月にかけて、「小説新潮」に掲載された。

重松清は「後記」で以下のように言っている。

ビタミンFというものは現実にはない。人の心にビタミンのようにはたらく小説があったっていいと考えて創った。Family, Father, Friend, Fight, Fragile, Fortuneと、Fで始まるさまざまな言葉を、個々の作品のキーワードとして物語に埋め込んだ。



重松清の略歴と既読本リスト


私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)

重松さんの家庭生活描写技術が確立した一作なのではないだろうか。父親だけでなく、母親や、子供の立場からの多層的視点があって始めて、家庭というものが浮かび上がってくる。力点はもちろんオヤジのぼやきにあるのだが。

「はずれくじ」に、修一の思いとして、「親は子供を選べない。たとえ、その子が『はずれ』だったとしても。」という言葉が出てくる。母親は子供を自分と同一視するので、すべてを受け入れるだろう。父親は母親より突き放して見るが、それでも、悪い点は棚に上げて、良い点を見ようと努力するのではないだろうか。例えば、勉強ができないと思っても(自分のことは棚に上げて)、しかし元気一杯だとか、要領は良いとか思い、あるいは、消極的ならば優しいとか、良い点に注目して「まず、ヨシヨシ」と考えるのではないだろうか。兄弟がいれば比較することはあっても、「はずれ」とは思わないはずだし、思ってもらいたくない。



ゲンコツ
オヤジ狩り、護身用器具の話を聞き、柔らかくなってしまったゲンコツを握り締め、もうだめだろうかと不安になる。そんなとき、近所の悪がきをどなりつけ、転んで汚した彼を自宅まで送る。

はずれくじ
妻が突然入院する。中学1年の息子は、何を聞いても「僕、どっちでもいいよ」と答える。修一と息子の互いに距離を置いてのコミュニケーション。修一は自分が中学のころの父との出来事を思い出す。

パンドラ
中学二年の娘が悪そうな男と付き合っている。結局、娘は騙されたと知る。妻が言う。「知らん顔してあげるのが、父親らしいのよ。無関心と知らん顔ってのは、ぜったい違うんだから」

セッちゃん
中学二年の娘のクラスで、転校生のセッちゃんがいじめられているという。とくに原因はないので解決が難しく、本人はもちろん親も悲しい。

なぎさホテルにて
配達する日付を指定した手紙をホテルに預けておけば、その日に届くように郵便局に出してくれる「未来ポスト」サービスを行っていたホテルに17年ぶりに一家で宿泊する。

かさぶたまぶた
イジメで自分の顔の絵が書けない娘、友人の中で一人だけ浪人することになってしまった息子、高みから見下ろすような父親に反発する子供たち。

母帰る
33年間連れ添って、家を出てほかの男と暮らしていた母。10年経ち、その男が亡くなったので、母に「戻ってこんか」と言う父。




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