川上未映子著『夏の入り口、模様の出口』2010年7月新潮社発行、を読んだ。
川上さんの日常で起こった事柄が不思議な感覚で不思議な口調で語られる。
ピッコン!
恋人の浮気を直感ピッコン!で感じ取り、「ほんまのこと言って」「せめて本人の口から聞きたい」と毎日6時間脅迫と懇願。相手のひるむ瞬間、間髪を入れず「・・・正直に言ってさえくれたらいい」。ほとんどグロッキーな相手はうなだれて自供を始める。
という怖~い話。
みんなに名前はあるけれど
寂れた商店街にある閉店した店の看板。この店の名前が看板に書かれたときは、嬉しく、誇らしかっただろう。そのときには確かにあったと思わせる希望の余韻がいっそう悲しさを助長する。
お金の話はしません世界
文芸業界では、依頼の時には、テーマ、締め切り、分量のみで、原稿料の話はいっさい出ない。聞くのははばかられる雰囲気だ。
インして平気!獣たち
老衰で死んだペットのハムスターを埋葬に行けないから冷蔵庫に入れたと友人から聞いて、それはあり? 豚肉も鶏肉も冷蔵庫に入ってはいるが、顔が付いているものは変に感じるのか?
初出:週刊新潮「オモロマンティック・ボム!」2009年5月から2010年4月
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
独特の感性と変わった文体で綴る未映子さんのエッセイは面白いのだが、最近ちょっと下降気味かな。
ちょっと慣れてしまったが、川上未映子さんの独特の文体冴え、特に語尾が良い。
唇ちょっととんがらした未映子さんのこんな文章が、あくまで文章が、私は嫌いじゃない。だけど、おじいさんがこんなこと書いたら興ざめになっちゃうよ。
『ヘブン』出版のサイン会のことを『「ありがたさ」の有り難さ』に書いている。売れない歌手活動をしていてレコード店の店頭で歌わせてもらう。少しも売れず、一生懸命手伝ってくれるスタッフに申し訳ないと思う。5年間頑張ったが芽が出ずやめになった。本のサイン会の長蛇の列を見ると、昔を思い出して涙がでそうになる。
なんでもスイスイやってのけて気楽そうに見える未映子さんにもこんな過去があったのか。
川上未映子の略歴と既読本リスト