小林雅一著『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』(講談社現代新書2307、2015年3月20日講談社発行)を読んだ。
デープラーニング(深層学習)を中心とする最近のAIの技術・応用解説がメインで、簡単なAIの歴史、将来課題などが加わる。
第1章 最新AIの驚異的実力と人類滅亡の危惧――機械学習の光と陰
ディープラーニング、ビックデータ、自動運転など最近のAI関連の話題と、AI脅威論の紹介
第2章 脳科学とコンピュータの融合から何が生まれるのか――AIの技術と歴史
人工知能のブームが終わり、確率論的アプローチ、コンピュータ能力の増大、脳科学の発展により、ニューラルネットを見直して、現在のディープラーニング・ブームへ至る。
第3章 日本の全産業がグーグルに支配される日――2045年「日本衰退」の危機
DARPAによる災害救助ロボットなど新しいロボットの紹介と、家庭用サービスロボットによる家庭内情報の吸い上げの危機。
第4章 人間の存在価値が問われる時代――将棋電王戦と「インダストリー4.0」
将棋電王戦のでのコンピュータの勝利、インダストリー4.0で変わる技術。人工知能は人間を超えていくか?それで良いのか、危機ではないのか?
1940~50年代に研究が始まったニューラルネットは、実際には「脳科学」より「数学の産物」だった。2006年、脳科学の研究成果がAI開発に本格的に応用され、「ディープラーニング」開発が進み、音声や画像のパターン認識能力が飛躍的に進んだ。今、自然言語処理、ロボット工学への応用が期待されている。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
将棋ソフトなどで話題のデープラーニング(深層学習)が今までのAIと、おおよそ何が違うのかを要領よく知りたい、あるいは知った気になりたい人にはお勧めだ。しかし、それだけなら、もっともっと簡単に書けるはずで、その他、AIの歴史、新しいロボットの動向、将来のAIは危険か、などにも力を入れているため、たびたび同じ説明が各所で繰り返すことになってしまっている。
小林雅一(こばやし・まさかず)
1963年、群馬県生まれ。KDDI総研リサーチフェロー、情報セキュリティ大学院大学客員准教授。
東京大学理学部物理学科卒業、同大学院理学系研究科を修了後、雑誌記者などを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。ニューヨークで新聞社勤務、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所などで教鞭をとった後、現職。
著書に『グローバル・メディア産業の未来図』(光文社新書)、『クラウドからAIへ』『ウェブ進化 最終形』(いずれも朝日新書)、『日本企業復活へのHTML5戦略』(光文社)ほか多数。
以下メモ。
ディープマインド社は、ディープラーニング(深層学習)技術技術を使って、コンピュータが初歩的ビデオ・ゲームのコンピュータ画面に表示される「ポイント」を知ることで、ゲームのルールや遊び方を自分で学習し、最強になる「強化学習」AIプログラムを開発した。上手くできたら褒め、失敗したら叱ることでコンピュータが進化する。
機械学習:コンピュータが、実社会やウエブ上に存在する大量のデータを解析し、そこからビジネスに役立つ何らかのパターンを抽出する技術。
線形回帰分析等による機械学習では、モデルと現実世界のデータとのズレを表現するコスト関数を最小の値に収束させる。
ベイズ確率とは、最初は適当に事前確率を決めて、そこに実験や測定の結果を反映させて、事後確率を求め、繰り返して徐々に確率を改良していく方法だ。これを利用して「ベイズ理論」と総称される統計・確率的AIの理論体系が確立された。
ベイズ定理とは、音声認識に使われる「隠れマルコフ・モデル」あるいは自動運転の基本原理「カルマン・フィルター」
自動運転は、GPS、ミリ波レーダー、ビデオカメラ、レーザー・レンジ・ファインダーなどのセンサーからの情報をAI情報処理する。AIは、現在地の確認は「モンテカルロ・ローカライザーション」で、周囲の移動体の把握は「カルマン・フィルタ」で行う。
周囲の移動体のデータを正規分布曲線で推定し、再度計測した結果を使ってベイズ定理で計算し、それを繰り返し、精度の高い確率に改良する。これがカルマン・フィルタ。
SVM(サポート・ベクター・マシン)は、集合Aと集合Bを分離する直線(境界線)と各々の集合との距離(マージン)を最大化することによってデータを誤って分類することを避ける技法。また、「カーネル化」と呼ばれる座標変換のテクニックによって、集合Aと集合Bの分離境界線として、直線だけでなくくねくねと折れ曲がった曲線も使えるようになった。
たった一つの学習理論(One Learning Theory)脳の研究により、視覚野、聴覚野、体性感覚野など脳の各領域は、個別の認知機構ではなく、統一的なメカニズムに従って動作しているとわかった。
ディープラーニングの最大の長所は、「特徴量(特徴ベクトル)」と呼ばれる変数を人間から教わることなく、システム自身が自力で発見する能力(スパース・コーディング)にある。
グーグル、アップル、アマゾンなど主力IT企業は、クラウド型AIの次世代ロボットを使ってビッグデータの収集が目的だ。
カナダ在住の化学者・保木邦仁(ほき・くにひと)氏は将棋ソフトのボナンザに「機械学習」が採用した。将棋ソフトには、次の手を探索する「ゲームの木探索能力」と棋士の大局観にあたる「局面評価関数」が必要。ボナンザは将棋ソフト自身が、プロ棋士の6万局もの棋譜データを教材とする機械学習により評価関数を作っていく方法をとった。