柚木麻子著『BUTTER』(2017年4月20日新潮社発行)を読んだ。
新潮社の宣伝文句は以下。
男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。「木嶋佳苗事件の闇について、柚木さんでなければ描けなかった。この本を読んで、女性と話をするのが怖くなった。」(佐藤優氏)
里佳は、梶井との独占インタビューをものにするため、グルメの梶井に面会申込みの手紙を出し、末尾にあのメニューを教えてくださいと書いた。面会がOKされ、「私たち、友達になれるんじゃないでしょうか」「あなとの代わりに私が食べて、感じて、見ます。あなたの身体の一部になって世界と交わります。私がここに来る限り、あなたは少なくとも魂だけは自由です」と言って、ご機嫌をとる。
梶井の偏った意見にコンプレックスを持つ里佳は強く影響されて、ほぼ飲み込まれてしまう。里佳は梶井のレシピに従いバターたっぷりの料理を食べ歩き、自分でも作って、10kgも太る。危惧した親友の伶子と共に梶井の出身地の新潟県・阿賀野に行って、梶井のルーツを探る。
「木嶋佳苗の拘置所日記」で、木嶋本人はこう言っている。
この本の主人公は、木嶋佳苗ではありません。私は、柚木を知りませんが、柚木も私を知りません。・・・
拘置所の面会室でレシピの話をする女がいると思ってるのか?柚木。
初出:「小説新潮」2015年5月号~2016年8月号
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
悪女の自己欺瞞とバターたっぷりの料理レシピが織りなす460ページの大作。
なんとか独占インタービューをものにしようと機嫌をとる里佳が、面会を繰り返すごとに梶井のバターまみれの料理と考えに翻弄され、押されて、感化され追従していく中盤までは、しつっこいがなかなかの迫力で引っ張っていく。ただ、私がまったく興味のない料理する話とあまり興味のないグルメ話にはうんざり。
ツキが落ちてから、冷静に梶井を見られるようになり、仲間と共同生活するあたりから、女性としての自分の生き方がメインテーマとなり、話は平凡になってしまう。
最後は梶井の逆襲だが、ネタバレなので略。
登場人物
梶井真奈子:婚活サイトを介して男たちから金を奪い3人を殺した罪で被告。1980年生れ35歳、新潟県育ち。通称カジマナ。ブログを書いている。
小路杏菜(しょうじ・あんな):旧姓梶井。真奈子の妹。28歳。
町田里佳:週刊秀明のただ一人の女性記者。身長166cm、33歳。愛称マッチー。
藤村誠:里佳と同期で恋人。文芸部所属。女子中学生のスクリームというグループのファン。
町田美咲:里佳の母、店を経営。離婚した夫(里佳の父)は孤独死。
北村:里佳の会社の後輩。仕事熱心ではなく、クール。
内村有羽(ゆう):週刊秀明のアルバイト。来年入社予定。
水島依子:かって「週刊秀明」の名物記者だったが、子育てのため文芸営業部へ異動。
狭山伶子:大手映画会社の敏腕広報を辞めて専業主婦に。里佳の大学からの親友。小柄、33歳。
亮介:伶子の夫。中堅菓子メーカの営業。体格良い好人物。
篠井芳典:大手通信社の名物編集委員。48歳。離婚して娘・神山咲耶(さや)がいる。
横田史郎:真奈子逮捕時に同居していた男。53歳。
笹塚美由子:料理教室経営。愛称マダム。
山村鳩子:被害者の姉
風貌ではなく彼女を取り巻く、自分をきちんと慈しんでいる安定した空気
どうして世の中の男の人って誰にも見られていないと、どこまでも生活がずさんになっていくのをやめられないんでしょうか、そして、それが自己管理の甘さではなく、哀れで切ないこととして世間に優しくゆるされるんでしょうか
最近、ちょっとだけ料理するようになって。ロックだよね、掃除とか料理ってさ。愛情や優しさじゃなくて、一番必要なのは、パワーっていうかさ・・・。なまくらな日常にのみこまれないような、闘志っていうかさ・・・
ラマダーンとは、そもそもは恵まれない人たちの気持ちを理解するためのもので、断食を免除される人は旅行者、病人、妊婦、子供、生理中の女性、意志が続かなかった人、そして、誤って断食を破ってしまった人(トルコのパンフレット)