hiyamizu's blog

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瀬戸内寂聴『美は乱調にあり』を読む

2017年11月12日 | 読書2

 

瀬戸内寂聴著『美は乱調にあり』(2010年5月15日角川学芸出版発行)を読んだ。

 

 ダダイスト辻潤に続き、アナーキスト大杉栄という怪物二人と暮らし、子供を7人も産み、嫉妬に狂った神近市子が大杉を刺した日蔭茶屋事件を引き起こし、大杉と共に28歳で甘粕大尉に虐殺された伊藤野枝の突き抜けた生涯を描いた評伝。

 瀬戸内寂聴の代表作で、世に伊藤野枝を再び知らしめた伝記小説の傑作。


「青鞜」を興し、「若い燕」奥村博史との恋を公開した平塚らいてう、らいてうに同性愛を抱く尾竹一枝(紅吉べによし)、堅実な保持研子(やすもち・よしこ)、小林清親の娘・小林哥津(かつ)、岩野泡明の妻・岩野清子など多士済々な当時の新しい女たち、そのまっすぐな愛、闘い、熱き直球人生が、伊藤野枝の周辺を飾り立てる。

 

 元々は瀬戸内寂聴(当時は晴美)が43歳のときに文藝春秋に連載した作品だ。88歳で書いたこの本のあとがきによれば、当時は伊藤野枝の名は一般にはすっかり忘れ去られていたという。瀬戸内さんがエロ作家として葬り去られようとしたこのとき、女性初の職業作家で、毀誉褒貶がある田村俊子の評伝を書いた。そして、「青鞜」を、さらに伊藤野枝を知った。この作品は瀬戸内さんがもっとも好きな作品の一つだと言い、実際代表作の一つになっている。

 

 タイトルは、大杉栄の言葉「美はただ乱調にある。諧調は偽りである。」から。15年後に続編 『諧調は偽りなり』 を書いている。 書・装丁は藤原新也。

 

 初出は「文藝春秋」1965年4月号~12月号連載。1969年の角川文庫を新装版で復刊。あとがきは書下ろし。

 

 

私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

 評伝と銘打っているように、詳細に調べた事実に基づいて書かれたドキュメンタリーだが、登場人物の感情などの記述も多く、その表現の多くは、作家の創作だろう。

 

 田舎者丸出しで、エネルギッシュな野枝と貴族的な平塚らいてうが対極的でありながら、互いを認め合い、やがて距離を置くようになる姿が面白い。

 それにしても、ルールを破ろうとする革命家の恋愛は、移ろいやすく、裏切りに満ち、破滅的で、品の悪いマスコミの絶好の餌だ。

 

 

瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)

1922(大正11)年徳島生まれ。東京女子大学卒。

1973年平泉中尊寺で得度。

1998年『源氏物語』(全10巻)の現代語訳を完訳。

2006年文化勲章を受章。

著書に『美は乱調にあり』『青鞜』『諧調は偽りなり』『手毬』『釈迦』『秘花』『奇縁まんだら』など多数。

受賞歴は、新潮同人雑誌賞、田村俊子賞、女流文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文学賞、泉鏡花文学賞など。

 

 

以下、目を引いた記述

 

 とにかく、字を読むことが、何より好きな子どもだったんです。もうその頃から、きらいなことは一切しようとしない子で、自分のことしか考えちゃあいませんでしたよ。

 

 大杉があの大きな躰をおりまげて、井戸端で赤ん坊のおしめを洗っていた姿を、今でも覚えておりますよ。大杉が来ると、そういうことは小まめにやって、姉の下のものでも何でも洗ってやっておりました。

 

 姉はそんなお巡りさんをしまいにはみんな手なづけてしまって、使い走りをさせたり、子供のお守りをさせたりするんです。荷物なんか、いつでも駅から尾行に持たせてやってきましたよ。(長女魔子の話)

 

 当時の津田英語塾は青鞜講演会に生徒がいったということを聞いた女教師が、いきなり教壇にひざまづき、「おおお、神さま、哀れな彼女を悪魔のいざないから救わせ給え」と祈るような雰囲気だった。

 

 明子が博史に覚悟を促した手紙。これを青鞜に公開した。

一. 今後ふたりの愛の上にどれほどの困難や面倒なことが起ころうとも、あなたは私と一緒によく堪えるか。・・・

二. もし私があなたに結婚を要求するものと仮定したら、あなたはこれに何と答えるか。

三. もし私が最後まで結婚を望まず、みしろ結婚による男女関係(ことに今日の制度としての)を憎むものとすれば、あなたはこれに対してどういう態度をとられるか。

四. もし私があなたに対して結婚はしないが同棲生活を望むものとすればあなたはどうされるか。

五. もし私が結婚も同棲も望まず、最後まで別居してふたりで適当の昼と夜をもつことを望むとすればあなたはどうされるか

六. ~八. 略

 

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