hiyamizu's blog

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須田桃子『捏造の科学者』を読む

2017年11月14日 | 読書2

 

 須田桃子著『捏造の科学者 STAP細胞事件』(2014年12月30日文藝春秋発行)を読んだ。

 

 表紙裏にはこうある。

このままの幕引きは科学ジャーナリズムの敗北だ

「須田さんの場合は絶対に来るべきです」
はじまりは、生命科学の権威、笹井氏からの一通のメールだった。
ノーベル賞を受賞したiPS細胞を超える発見と喧伝する
理研の記者会見に登壇したのは、若き女性科学者、小保方晴子。
発見の興奮とフィーバーに酔っていた取材班に、疑問がひとつまたひとつ増えていく。
「科学史に残るスキャンダルになる」
STAP細胞報道をリードし続けた毎日新聞科学環境部。
その中心となった女性科学記者が、書き下ろす。

 

 第46回大宅壮一ノンフィクション賞(書籍部門)を受賞。

 

 ノーベル賞級とも言われるSTAP細胞発見が小保方氏による華やかな記者会見で発表され、マスコミのフィーバーが起こり,すぐに論文のボロが次々と指摘され、やがてSTAP細胞はできていなかったとされた。

 本書は、この経過をマスコミの中で先頭を切った毎日新聞の須田桃子記者が、取材や研究当事者とのメールなどで綴ったマスコミの視点から記録で、STAP細胞は小保方氏をはじめとする研究者達の悪意ある捏造だと決めつけている。

  

 誰が、どこで不正をしたのかという不正追及より、本当にSTAP細胞は無いのかという検証を優先する理研の進め方に須田さんは異議を唱える。

・・・科学は長年、論文と言う形式で成果を発表し合い、検証し合うことで発展してきた。・・・研究機関自らが、社会の関心のみに配慮して論文自体の不正の調査を軽視し、先送りにした事は、科学の営みのあり方を否定する行為ともいえよう。理研の対応は、科学者コミュニティを心底失望させ、結果的に問題の長期化も招いた。・・・

 

 

私の評価としては、★★(二つ星:読めば)(最大は五つ星)

 

 著者・須田記者は、多くのマスコミと同様に、真実の追求よりも、他社に先駆けてスクープを得ることを優先する。ネットニュース華やかな現在でも一日一回発行の新聞が、正確さ、ち密さよりも早さを競ってどうするのか。

 

 すでに、小保方さんのいい加減な実験・論文は明らかになり、STAP細胞はおおよそ否定されているのに、重箱の隅をつつく細かな矛盾、間違いに固執し、負け戦の研究者に執拗にメールして迫る。追い込まれた相手の立場は無視し、真実の追及、正義の味方とばかり容赦はしない。

 笹井氏の遺書には「マスコミ等からの不当なバッシングに疲れ切ってしまった」とい書かれていたが、須田氏は軽くパスして、理研本部の責任を追及する(p. 348)。

 小保方氏も、マスコミからひどいバッシングを受けたと「あの日」に書いているが、この本では、自己弁護もなく、この件にまったく触れていない。言い訳くらいして欲しかった。

 

 

 私は理研はマスコミとの窓口を広報に一本化すべきだったと思う。個々の研究者がマスコミ対応で振り回されるなんておかしい。笹井氏から須田記者へのメールは約40通にも上ったという。他社も入れると一体毎日何通のメール送受があったのだろうか。その多くは詰問調だろうから、こんなことやっていたら、研究・管理ができないし、おかしくもなろう。

 故人となった笹井氏のメール公表の許可を得ているのだろうか?

 

 あとがきで著者は、

関係者への「オフレコ」取材については、その時点での約束は必ず守ってきたものの、その後の本人の公の発言や各機関の調査報告書などで公知の事実となった内容も多い。すでに伏せておく理由がなくなり、かつ問題の全体像や本質に迫るうえで重要だと考えられる内容については、慎重に吟味した上で本書に盛り込んだことを記しておく。

 オフレコの約束を破るのは、慎重に(??)吟味して、自分の判断だけで行ったと公言している。内容がたとえ公知であっても、そのタイミングで、その人が言ったということは、本人に了解を得なければオフレコにすべきだ。

 

 

 12月の理研調査委の結論が出る前になぜ本書が出版されたのか、なぜあと1カ月程待てなかったのか。大宅賞受賞のぎりぎりのタイミングで、年末出版したのだろう。発売元も毎日新聞でなく、大宅賞運営の文藝春秋で、出来レースくさい。

  

須田桃子(すだ・ももこ)

1975年千葉県生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了(物理学専攻)。

2001年毎日新聞社入社。

2006年、東京本社科学環境部、2011~13年、大阪本社科学環境部。

2013年から再び東京本社科学環境部。生命科学、再生医療、生殖補助医療、ノーベル賞などを担当。特にiPS細胞(人工多能性幹細胞)については06年の開発発表当初から12年の山中伸弥・京都大学教授のノーベル賞受賞を経て現在まで継続的に取材してきた。

コメント
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