東野圭吾著『宿命』(講談社文庫ひ17-8、1993年7月15日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
高校時代の初恋の女性と心ならずも別れなければならなかった男は、苦闘の青春を過ごした後、警察官となった。男の前に10年ぶりに現れたのは学生時代のライバルだった男で、奇しくも初恋の女の夫となっていた。刑事と容疑者、幼なじみの二人が宿命の対決を果すとき、余りにも皮肉で感動的な結末が用意される。
巻末の清原康正氏の「解説」によると、東野氏はこう語っている。
・・・綿密な計算を立て、混乱しないように登場人物一人一人の過去を書き込んだ年表を作りました。執筆機関は二カ月ぐらいでしたが、この年表作りには三カ月ほど費やしましたね。・・・
本書は、1990年6月講談社ノベルスに書き下ろし、刊行。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
東野作品は相変わらず楽しくスイスイ読み進められる。
あいまいな記憶しかない子供時代の何か不思議を感じさせる光景が、話の背後に常にあって、最後にその意味、裏の背景が明らかにされる筋書は物語に奥行きを与えている。
複数の運命的出会いが起こり、それが実は見えない糸に引かれた出会いであった。最後の方でその糸がはっきりと示される構成は見事だ。
犯人探しは、結局、誰でも良かったにではと思えるので、感心しない。ただ、最後の最後で逆転するのは、ちょっと無理筋に感じるが、説明は成り立っている。
互いに良く知っていた同士が双子だったのだが、誕生日が同じことに気がつかなかったのだろうかという疑問が生じる。
登場人物
和倉勇作:島津警察署の巡査部長。瓜生晃彦の同級生。美佐子の元カレ。
和倉興司:勇作の父。サナエの死について調べていた警察官。
織田:県警捜査一課警部補。勇作の先輩で相棒。
西方:県警本部の警部。紺野の下で捜査本部のキャップ。
紺野:県警捜査一課の警視。捜査本部の主任捜査官。
瓜生和晃:故人。UR電産株式会社の創業者で社長だった。
瓜生直明:冒頭、病院で死亡。和晃の息子でUR電産株式会社の専務。
瓜生亜耶子:直明の妻。
瓜生晃彦:直正の先妻の息子。統和医科大の研究者。
瓜生美佐子:晃彦の妻。旧姓江島。
瓜生弘昌:直明と亜耶子の息子。
瓜生園子:直明と亜耶子の娘。
尾藤高久:直明に続き須貝正清の秘書。
内田澄江:瓜生家で20年以上働く家政婦。
水本和美:瓜生家の臨時家政婦。
須貝正清:UR電産の直明の後の社長。父・忠清は、瓜生和晃の義弟で先々代社長。
須貝行恵:正清の妻。
須貝俊和:正清・行恵の長男。
松村顕治:UR電産の常務。故直明の片腕。
中里:UR電産の専務。須貝派。
池本:開発企画室長。須貝派。
江島壮介:美佐子の父。電気工事中に事故で頭を打って上野脳神経外科に入院。その後、UR電産施設部勤務。
江島波江:美佐子の母で壮介の妻。
日野早苗:サナエとしてレンガ病院の患者。投身自殺。
上原雅成:国立諏訪療養所で脳神経の研究。
山上鴻三:上原雅成をよく知る元医者。
片平:古書商
以下、あらすじ(ネタバレで白字)
和倉勇作は、レンガ病院の庭を歩いている心を病んだサナエという女性に何か心惹かれる。しかし、彼女は飛び降り自殺してしまう。勇作は小学校で出会った瓜生晃彦とライバルになるが、晃彦には何一つ勝てない。
勇作が晃彦と同じ統和医科大の受験日に父が脳出血で倒れ、受験できず、高卒のまま父と同じく警察官になった。所轄警察で殺人事件が起き、県警捜査一課のお供で捜査に当たるうちに瓜生家に行き、統和医科大の助手になっていた瓜生晃彦の妻・美佐子に逢う。美佐子はかつて勇作の彼女だった。
晃彦の祖父が創業し、父・直明が社長をつとめていたUR電産と統和医科大を舞台にし、勇作、美佐子、晃彦を過去から結ぶ糸が徐々にほどけてくる。
UR電産の派閥争いは、社長だった瓜生直明が死に、晃彦は脳神経外科の研究者で、瓜生家に事業の後継者がいないので、新社長には、須貝家の須貝正清がなった。須貝は、過去のおぞましい実験を続けようとしたため、瓜生派に狙わることになる。やがて須貝正清はボーガンに刺されて殺された。勇作が捜査を進めると、晃彦の関わりが疑われた。しかし、犯人は瓜生派で唯一幹部に残った松村顕治が昔からの家政婦の助けを得て行ったのだった。
調べを進めると、UR電産の前身の瓜生工業が人体実験していたことが分かる。脳に手術をして、そとから電気を加えると、感情を操れるという『電脳式心動操作方法』を研究していたが、途中で中断したのだった。
この実験の被験者に一人が美佐子の父で、このため美佐子はUR電産から目立たないように特別待遇されていた。サナエも被験者の一人で、双子の兄弟・勇作と晃彦の母である事が判明する。