キャサリン・ライアン・ハワード著、高山祥子訳『56日間』(新潮文庫ハ59-1、2022年10月1日新潮社発行)
裏表紙にはこうある。
新型コロナウイルスが猛威をふるうなか、ダブリン市内の集合住宅で身元不明の男性の遺体が見つかる。遡ること56日、独身女性キアラは謎めいた男性オリヴァーと出会っていた。関係が深まるにつれ二人には、互いに明かせぬ秘密があるとわかるが……。遺体発見の現在と過去の日々を交互に描き、徐々に明かされる過去。そして待ちうける慟哭のラスト。コロナ禍に生まれた奇跡のサスペンス小説。
本書は、「コロナ禍」背景として、現在である「今日のパート」と、56日前を起点とする「過去のパート」の2つのストーリーが交互に語られる。
「今日のパート」集合住宅で発見された遺体を、アイルランド警察の女性刑事リーと部下のカールが捜査する物語で、遺体は誰か、事故か、事件か、死因は、と捜査は難航する。
「56日前」で始まる「過去パート」は男女の出会いの物語で、女性視点と男性視点で語られていく
女性主人公のキアラは、スーパーのレジ・カウンターの行列に加わろうとしている魅力的で、身なりの良い男から声をかけられ、店を出たところで再び男は、キアラのスペースシャトルの絵がついたトートバッグを、「いい袋だね」と声をかけてくる。
オリヴァーと名乗った男が提案し、コーヒーを買って、堤防に座って一緒に飲み、語り合い、月曜に、アポロ計画のドキュメンタリー映画を一緒に見に行かないか誘われる。
キアラとオリヴァー、二人ともに何か謎が感じられる彼女と彼の関係はどうなっていくのか? そして、「今日のパート」の腐敗した遺体の謎は? 二つのストーリーはどんなふうにリンクするのか?
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
「今日のパート」の少しずつしか進まない遺体の捜査状況と、56日前から現在に向けての「過去のパート」での男女の出会いとためらいながら進展する恋愛の話が、交互に進んで、最後に両方が一致するという話の構成が面白い。
何かいかにも罪の意識に悩む男と、何かがありそうな女が互いに好きになっていく過程で、思わせぶりな謎?(伏線?)が、歯に詰まった何かのように気になりながら、不安を秘めて進んで行く。しかし、ありがちな余分な挿入される話はなく、二人の話はストレートに語られ、愛が深まると同時に不安が増していく。
アイルランドでのコロナに対するロックダウンの実状も、実生活の視点から実感をもって描かれて、興味を引いた。さらに、人と人が会えなくなるというコロナ禍の進展と、二人の恋愛の進展が関連を持って進行するのも巧みに描かれている。
決してベテランではないのに、著者・キャサリン・ライアン・ハワードの語り口は見事だ。私には、中ほどで謎はだいたい推測がついてしまったが、それでも面白く読み切った。