hiyamizu's blog

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道尾秀介『N』を読む

2022年06月13日 | 読書2

 

道尾秀介著『N』(2021年10月10日集英社発行)を読んだ。

 

集英社のサイトにはこうある。

全六章。読む順番で、世界が変わる。
あなた自身がつくる720通りの物語。

すべての始まりは何だったのか。
結末はいったいどこにあるのか。

「魔法の鼻を持つ犬」とともに教え子の秘密を探る理科教師。
「死んでくれない?」鳥がしゃべった言葉の謎を解く高校生。
定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人。
殺した恋人の遺体を消し去ってくれた、正体不明の侵入者。
ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護師。
殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事。

道尾秀介が「一冊の本」の概念を変える。

 

冒頭にある「~本書の読み方~」

本書は六つの章で構成されていますが、読む順番は自由です。……

……

読む人によって色が変わる物語をつくりたいと思いました。……

なお本書は、章と章の物理的なつながりをなくすため、一章おきに上下逆転させた状態で印刷されています。        著者

 

なお、表紙、裏表紙、背表紙ともに、ほぼ上下対称になっている。題名も上下対称だから「N」にしたのかも。電車でこの本を読んでいるとき、前の人が、本が逆さになっているのに気がついて不審に思われないための工夫でもあるのだろうか。それにしても、途中で本をひっくり返して読み続けたらびっくりされるだろう。

 

 

「名のない毒液と花」p78~

中学の理科の教師の吉川利香は結婚1か月の精一と、精一の高校の同級生・江添の3人でボートを漕いで目玉島へ向かっていた。精一が江添と始めたペット捜索業の初仕事で、何故か無人島で見たという情報が入ったブラッドハウンドの子犬・ルークを探しに行くのだ。無人島では利香の生徒・飯沼知真(かずま)の姿を見かけた。

雲に空いた5つの穴からまっすぐ伸びた光が、海面を花びらのように……。

 

「落ちない魔球と鳥」p81~

高校野球部のエース・小湊英雄の弟・晋哉は、兄を真似して毎朝フォークボールの投球練習をしていたが、球はちっとも落ちず、補欠にさえなれなかった。「死んでくれない?」突然声がしたが、周りには堤防で釣りをしているニシキモさんしかいなかった。全身灰色で目の周りだけが白い鳥だった。モーターボートで鳥を追いかけて、地図で「つ」の字になっている湾の下の線から上の線へ向かい、桟橋を降りて、永海(ながみ)家へ着いた。高三の娘・千南海(チナミの鳥で、大型のインコ・ヨウムでリクちゃんだと知った。

「通称、天使のはしごだ!」…「あの光を伝って、雲の上から天使が降りてくるんだと!」…目の前で、花が咲いていく。たぶん野球場くらいある花。

 

「笑わない少女の死」p180

少女を殺した犯人を私は知っている。 私だけが知っている。 しかし、このまま誰にも話さずに死んでいくだろう。

定年退職した英会話が苦手の英語教師のダブリン旅行記。

 

「飛べない雄蜂の嘘」p183

DVで死にそうになったときに男が現れ、夫の田坂を刺して、私は救われた。男は錦茂(ニシキモ)と名乗った。

 

「消えない硝子の星」p290

アイルランドの大学を出て看護師として5年働いた。私・カズマは、10歳のホリアナの母親であるホリーを自宅でのターミナルケア―担当となった。ホリーの姉のステラは仕事もなく、貧しかった。ホリーの願いをかなえるためにホリアナと私は砂浜で貴重なウラン硝子のシーグラス(砂浜に混じる小粒のガラス)を探す。

 

「眠らない刑事と犬」p293

大学教員の木崎夫妻が刺殺された。同居する23歳の一人息子が発見者だ。隣家の引きこもり、19歳の小野田啓介に疑いがかかった。現場からいなくなった犬を女性警察官とペット探偵の江添が探す。

 

 

初出:「小説すばる」2019年10月号~2021年6月号

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき、 最大は五つ星)

 

この本の構成は失敗だと思う。目次のとおりの順序で一度読んだだけだが、違う順序でもう一度読んでも、前に記憶が残っていて、まったく違う物語にはならないだろう。そもそも章が変わるたびに本をひっくり返してして読むというのは、前に戻る時にややこしい。

 

それぞれに話が謎を含んだまま終わるので、その謎を引きずってまま次々に進むので、闇の中を進む心地がして不思議な感じがする。名前をはっきり書かないで話を進める場合があり、著者の術中に陥ってしまう。

 

私は、話の中では「消えない硝子の星」が一番、切なくて、必死の思いが伝わって、ステラの謎も解って、良い話だなと思った。

 

 

道尾秀介の略歴と既読本リスト

 

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