東野圭吾著『手紙』(文春文庫ひ13-6、2006年10月10日発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く…。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き、感動を呼んだ不朽の名作。解説・井上夢人
弟の大学進学のための金欲しさに空き巣に入った武島剛志は、思いがけず強盗殺人まで犯してしまう。突然独りになった高校生の武島直貴は、謝罪するつもりで訪れた被害者の家の前で逃げ帰ってしまう。
卒業式前に、獄中の兄から手紙が届き、以後月に一度、手紙が届く。獄中の平穏な日々を知らせる兄とは違い、直貴は幸せをつかもうとするたびに、兄のことが障害になる。
ようやく結婚して幸せになるが、娘が仲間はずれにされ、ついに兄との縁を切るという手紙を出す。しかし、・・・。
初出:毎日新聞日曜版連載2001年7月1日~2002年10月27日、単行本2003年3月毎日新聞社刊。
直木賞候補作。文庫本は発売1か月で100万部を記録。山田孝之主演で映画化もされた(2006年公開)。
私の評価としては、★★★★★(五つ星:是非読みたい)(最大は五つ星)
ちょっとおまけ気味の五つ星。
罪を犯した子供についてただただ謝る親を追及するマスコミ。芸能人に関してよく見かける光景だ。しかし、犯罪者の兄妹への追及、差別は表には出てこない。ときどき、殺人犯の妹などの結婚が破談になったと、ニュースの端で目にするくらいだ。
この世間で注目されることが少ない加害者の家族への差別をストレートに扱ったことが第一にすばらしい。
弟当人にとっては理不尽な差別でも、ついそうしたくなる、せざるを得ない気持ちも分からなくはない。差別の辛さの一方で、切っても切れない二人だけの家族の絆。直接の話し合いではなく、メールでもLINEでもなく、手紙というところが、涙腺を刺激する仕掛けだ。
東野さんは感情のこもった小説は苦手かと思っていたが、なんでも書ける人だとわかった。
登場人物
武島直貴:たった一人の家族の兄剛志が強盗殺人の罪を犯し、厳しい差別の中、独りで生きていく。
武島剛志(つよし):19歳のとき、窃盗に入り、思わず殺人を犯す。弟が心配で獄中から月一度手紙を出す。
緒方:剛志が殺してしまった独り暮らしの資産家の老婦人。
緒方忠夫:被害者遺族。被害者の長男。
梅村:直貴の高校の担任教諭。40代半ばで国語教師。
中条朝美:直貴の恋人。東都女子大生。母親は中条京子。
中条:中条朝美の父。大手医療機器メーカー役員。
嘉島孝文:中条朝美の従兄で婚約者。
福本:直貴の高校卒業直後に就職した、リサイクル会社の社長。
白石由実子:リサイクル会社の親会社に勤務。直貴に一方的にアプローチをかけてくる。
立野(たての):直貴のリサイクル会社の時の同僚。
倉田:直貴がリサイクル会社勤務時に、部屋が同じだった季節労働者。大検目指し勉強中。
寺尾祐輔:直貴の大学通信講座の同級生。直貴を自分のアマチュアバンド・スペシウムのボーカルに誘う。
コータ、アツシ、ケンイチ:アマチュアバンド・スペシウムのメンバー
平野:直貴の大学卒業後の就職先・新星電機の社長。
町谷:新星電機社員。直貴の1年先輩で同じ社宅に越してくる。直貴の兄のことを言いふらす。
前山繁和:由美子のバッグを奪いそこない、怪我をさせたひったくり犯。