米津一成著『追い風ライダー』(2012年11月30日スターダイバー発行)を読んだ。
表紙裏にはこうある。
「ねぇ、今度連れてって」「え?」「今度の日曜は?」「それは自転車で、という話か?」
「自転車乗りかどうか確かめてから言ってるんだから自転車に決まってるじゃない」
彼女はさらに俺を睨む。わけがわからなくなったきた。今まで何度かおミズから
「食事連れてって」と誘われたことはあったが、これはどういう展開だ?
――自転車を通じてゆるやかに繋がる5つの物語
桜の木の下で
(奥多摩大回りコース90km 武蔵五日市から鶴峠、奥多摩湖を通って青梅まで)
仲良しの旦那さんを事故で亡くした翻訳家の妻(島田)が、走ったコースを紹介していた彼のブログを、更新し続けるため、彼の残した地図を眺めていろいろなコースを走る。最後のページの写真にある廃校前の満開の桜があまりにも美しい。
大切なことはそのひとつひとつの事象じゃなくて、どんな時でも、どんなことでも「あなたの味方だよ」というサインを送り続けてくれたことなのだと思う。
キャットシッター
(駒沢公園サイクリングコース 1.9km)
高梨杏子は会社に自転車通勤し、同時に、出張などで留守する人の自宅に行って猫の世話をするキャットシッターのアルバイトをしている。仕事できる友人の柴崎一恵が自分について語る。
「・・・端から見れば取り入るためにやってるとしか見えないだろうけど。やってる本人は・・・気持ちが通ずるドアを開けるためにやっている感じ。なんでそんなことまでするのかっていうと、あたしが『人』を好きだからなのよね。たぶん」
旧友の自転車屋
(荒川サイクリングコース 笹目橋→大宮運動場 15km)
高梨の会社の課長の田崎純は叔父の見舞いに行く時にふと、荒川サイクリングロードを自転車で走ることを思いつく。途中で小学校の友達で、親の自転車屋を継いだ石山に会う。彼は言う。
「・・・『この商売で食っていけるのか』じゃなくて『この商売で食っていきたい』って気持ちになったのさ」
勇気の貯金
(ランドヌールクラブ埼玉 チャレンジ霞ヶ浦200km)
小学4年のとき、土浦から東京へ引越した関口は、家出して土浦の祖母の家まで80kmを自転車で走った。その彼が今、霞ケ浦へのコース設定にチャレンジする。
ロードバイクに乗る誰もが最初は「距離」をモチベーションにする。・・・自転車で長い距離を走ること、それは勇気の連鎖だと思う。・・・だからその入口である二百キロのコースで「勇気の貯金」をしてほしいと思うのだ。
ブルべ(Brevet) フランス発祥の伝統の長距離サイクリングイベント。規定距離を規定時間内で走破することにより完走の認定が与えられる。一般には200km、300km、400km、600kmの4つの距離があるが、さらに1,000kmを超える超長距離もある。
さとうきび畑
(ツール・ド・おきなわ 市民210キロレース)
関谷健次はレースに出て恩人の真行寺に大けがをさせて以後、レースには出ていない。ロードバイクに乗って5、6年というオミズ(水商売)の新垣沙紀に、今度サイクリングロードに連れてってと誘われる。沙紀は夢の実現のためにお金を貯めているという。
2015年、徳間文庫からも刊行されている。
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
表紙の漫画チックな絵でわかるように、いわゆるライトノベルなので、文体が軽く、想像通りな展開になるのだが、ともかく気軽に読める。
ただ、すべて高速走行用の自転車であるロードバイクの話なので、興味ない人は読みにくい、というか読む気がしないだろう。
ママチャリとマウンテンバイク以外は乗ったことのない私は、読んでいるうちに、「ペダルを軽く踏んだだけですっと走り出し、漕ぐのをやめてもスピードが落ちる感じがしない」というロードバイクに乗ってみたいと思った。
米津/一成
1959年東京生まれ。ロングライドを中心に自転車を楽しむ。メンバー数3万人を超えるmixi「自転車で遠くへ行きたい」コミュニティ管理人。フランス発祥のロングライドイベント「ブルベ」で2006年に200km、300km、400km、600kmを走りSR(スーパーランドナー)の認定を受ける。オリジナルデザインのサイクリングジャージの制作も行っている