東野圭吾著『悪意』(講談社文庫ひ17-22、2001年1月講談社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
人気作家・日高邦彦が仕事場で殺された。第一発見者は、妻の理恵と被害者の幼なじみである野々口修。犯行現場に赴いた刑事・加賀恭一郎の推理、逮捕された犯人が決して語らない動機とは。人はなぜ、人を殺すのか。超一流のフー&ホワイダニットによってミステリの本質を深く掘り下げた東野文学の最高峰。
各章は、野々口修による手記、加賀恭一郎の記録と、交互に手記と記録/独白等が続く。
犯行現場で、加賀刑事は第一発見者の野々口に会って驚く。彼は、かつて加賀が教師をしていた中学校の同僚教師であった。加賀刑事は、野々口が事件に関しまとめた手記を読ましてもらう。
この章で加賀が教師を辞めるに至ったいじめ事件の経緯も語られる。
加賀は、実は野々口が犯人ではないかと推理し、追及すると野々口は殺人を自供するに至るのだが、なぜかその動機について語ろうとしない。やがて、加賀は次々と犯行動機につながる事実を見つけていく。野々口は日高のゴーストライターにされて、作家への夢と愛する人を失ったのだった。
それでもなにか釈然としない加賀は小学生時代の野々口と日高の実状を調べ、野々口が日高殺害に至った“悪意”が何なのか、真実はどうなのか、解明へこぎつける。
本作品は、1996年9月に双葉社より単行本として、2000年1月に講談社ノベルスとして刊行。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
テーマが犯人探しではなく、動機探しという(私にとっては)新しさがある。東野さんは膨大な量のミステリを書いているが、常に新しい試みに挑戦しているのが、あきないところだ。
小学生のときの友人関係が徐々に明らかになるが、じめっ子、いじめられっ子、助けた子のそれぞれの思うところ、感情は単純なものではない。そして、その後の関係が歪み、恨みを晴らす陰険な計画を長期に少しずつ実行するなど、徹底的にいじけてしまう。
以下、ネタバレなので、白字で表す。
話が野々口の手記から始まり、その中では日高はワルで、自分は被害者として描かれているので、読者はスタートでそう刷り込まれやすい。手記であるからには、その内容は本人に都合の良いように書かれていて、必ずしも真実とはかぎらない。
野々口さん、あなたは長い時間と手間をかけて、動機を作ったのです。日高邦彦さんを殺害するにふさわしい動機をね。
登場人物
加賀恭一郎:以前中学の社会科教師だった。
日高邦彦:被害者。売れっ子の小説家。
野々口修:日高の幼馴染み。児童向けの小説家。元国語教師で加賀の教師時代の先輩。
藤尾正哉:故人。日高と野々口の幼馴染でワルの元締め。日高の作品「禁猟地」のモデルとなった人物。
藤尾美弥子:正哉の妹。抗議するために度々日高に会いに来ていた。
日高初美:日高の元妻。交通事故により他界。
篠田弓枝:初美の母親。横浜に夫と住んでいる。
長野静子:同じ職場だった初美の友人。
日高理恵:日高邦彦の再婚相手。先月入籍。
林田順一、新田(増岡)治美、松島行男、高橋順次、三谷宏一、中塚昭夫:野々口と日高の小学校の同級生
円谷雅俊:野々口と日高の小学校の担任
広沢智代:野々口と日高の小学校近くのパン屋のおばさん
辻村平吉:91歳。15年前まで花火師。
迫田:警視庁捜査一課の警部。50歳前後。
牧村:警視庁捜査一課の刑事。加賀の後輩。