柚木麻子著『あいにくあんたのためじゃない』(2024年3月20日新潮社発行)を読んだ。
新潮社の特設サイトの紹介
過去のブログ記事が炎上中のラーメン評論家、夢を語るだけで行動には移せないフリーター、もどり悪阻とコロナ禍で孤独に苦しむ妊婦、番組の降板がささやかれている落ち目の元アイドル……いまは手詰まりに思えても、自分を取り戻した先につながる道はきっとある。この世を生き抜く勇気がむくむくと湧いてくる、全6篇。
読者の皆様へ
自分の機嫌を自分でとれない方にたのしんでいただけたらありがたいです。
めんや 評論家おことわり→ラーメンを実際に作ってみて気づいたことを全てかきました。
BAKESHOP MIREY’S→若い方に相談をもちかけられると、ついつい力技で一瞬で解決してしまいたくなる、私の悪いところから生まれた話です。
トリアージ2020→これは実際に私の身の回りで起きたことがもとになっていて、私の鎖骨の間にも抜糸の跡があります。
パティオ8→これも私の友達から聞いた話がもとになっています。zoomで吐いたのは私の話です。
商店街マダムショップは何故潰れないのか?→昔から商店街マダムショップがきになっていて、ようやく最近、中に入ったり、購入することができるようになりました。その度に、女主人たちがなぜか驚いた顔をすることから、生まれた話です。
スター誕生→どうして、この話を書こうと思ったか、理由は伏せますが、強いて言うならば、MCワンオペがうっかり言ったことは、私が本当にたまたま口にしたことです。
第171回直木賞候補作。ちょっと毒のある6編の短編集。
「めんや 評論家おことわり」
「全方位型淡麗大航海時代の幕を切ったと言われる、今年で創業50年「中華そば のぞみ」は、…」で始まるラーメン・オタクのうんちく、詳細なこだわりが続く。(参考文献に『最新解説 ラーメンの調理技法』があった。)
ラーメン評論家・ラーメン武士が炎上し、謝罪する。受け入れられ、招待された「のぞみ」に行くと、被害者達が集合していて、過去の悪行を突き付けられ、つるし上げにあう。
BAKESHOP MIREY’S
新幹線が停まるようになって栄え始めた街の留学斡旋会社に勤める秀美は、焼き菓子を出す小さな店舗を始めたいというアルバイトの未怜を応援し、入れ込んで行く。
トリアージ2020
多数の患者の中で一人でも多くに命を救うために治療の優先順位を決めることが「トリアージ」。
一人暮らしの升麻梨子は妊娠し、つわりが酷くてひきこもり状態となり、TVの「トリアージ~呼吸器内科医・宝生雅子~」にはまっていた。麻梨子はこの長寿番組の話題をつうじてフォロワー18万人といいう「よこちん」と知り合った。ネットで何も食べられないと嘆くと、よこちんの母という横山典子が訪ねてきて……。
パティオ8
「中庭で子どもが騒いでも気にしないこと」が入居条件の「パティオ6」で、101の宮本が子どもたちをうるさいと怒鳴る。子どもを中庭で遊ばしている間に仕事している母親たちは……。
商店街マダムショップは何故潰れないのか?
次々とシャッターを下ろす商店街で客が入っているのを見たことがない婦人雑貨店「ドゥリアン」の不思議。
スター誕生
90年代に美少年グループデビューし、40代半ばでようやくキャスターに収まったが、打ち切りがささやかれる真木信介。40代くらいの女がファミレスでカメラに向かってヒステリックに、YouTuber「独居老人しげる」に無断撮影したとまくし立てている動画が拡散され続けている。この女性がカッコ良く、「MCワンオペ」と名付けられて人気なのだ。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)
直木賞候補作品なので読んだのだが、他人に配慮せず撮影優先のYouTuber、善意の押し付け者など、登場人物に共感できず、悪意の仕返しなど後味の悪さが残った。爽快だった『ランチのアッコちゃん』が懐かしい。
例えばラーメンの作り方など細部は魅力的なのに、舞台設定、展開にわざとらしさ、人工的な部分があり、素直に読み進められない。筋をひねりすぎるので、話がすっと入ってこない。
魅力的なタイトルはどこに行ったの?