一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

2024年度上半期・私が勝手に選ぶ、驚愕の一手

2024-10-29 00:18:45 | 将棋雑記
半期に一度の企画「2024年度上半期・私が勝手に選ぶ驚愕の一手」を、今月上旬に発表するのを忘れていた。それで、約1ヶ月遅れで発表する。
今回選んだのは、上半期最終日の9月30日に京都市で指された、第72期王座戦第3局(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)・▲永瀬拓矢九段VS△藤井聡太王座戦である。
ここまで藤井王座の2連勝。後がない永瀬九段は角換わりを志向し、いつもの形になった。
そこから永瀬九段がうまく指し、大優勢になった。思えば前期の第4局もここで行われ、永瀬王座(当時)が必勝形になりながら、終盤の落手で歴史的逆転負けを食らったのだった。
ちなみに、この将棋が指されたのが昨年10月11日だったので、私は永瀬王座のこの落手を、「2023年度下半期・驚愕の一手」に選んだのだった。
さて本局、この局面まで来たらもう永瀬九段は負けられないが、藤井王座の受けも見ものである。藤井王座といえばAIばりの終盤が代名詞だが、実は大山康晴十五世名人ばりの受けにも目を見張るものがある。勝率8割を実現するには負け将棋も勝たねばならず、それには強靭な受けと、強烈な勝負手が必須となるのだ。
藤井王座はふらふらと玉を逃げ、一手すいたところで、渾身の香を打った。

△9六香! ふつう、香は下段から打つものだが、ここではあえて近づけて打った。そこで永瀬九段が1分将棋の中、▲9七歩と打ったのがマズかった。
その前まで後手玉は簡単な詰めろだったが、それは9筋に歩を打つ手があったからである。利き数の少ない端は、歩の叩きが銀に近い働きをすることがある。▲9七歩を打つ前、永瀬九段の持駒は「金銀歩5」だったが、実戦的には「金銀銀歩4」の感じだった。
だが9筋に歩を打ってしまっては、持駒は「金銀」のみとなる。これでも後手玉は詰みそうだが、ギリギリ逃れている。これが△9六香の効果で、玉が9五まで逃げられるのだ!
本譜はそこで△7八銀。これに▲8八金打の変化がよく分からないが、それでは先手負けなのだろう。
よって永瀬九段は詰ましにかったがもちろん詰まず、無念の投了となった。
戻って図では、▲9七桂と跳ねて先手が勝ちだったらしい。だがこの手は△同香成と取られて王手が続きそうだし、8九の地点も開く。人間的には、歩でガードしたくなるところである。大山十五世名人は、「人間は間違える」の信念のもと指し手を進めたが、藤井王座にもそれが垣間見えることがある。それが△9六香だった。
藤井王座が掘った、恐るべき落とし穴であった。
コメント (5)
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