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「甲越軍記」を現代仕様で書いてみた(194) 甲越 川中島血戦 21

2024年09月08日 09時34分06秒 | 甲越軍記
 坂道での上下の合戦は二か所に及び、山や谷に鳴り響き、樹木は震えて動き、今にも崩れ落ちるかと思うほどである
上の道では、板垣、小幡、横田、市川の甲州勢と、小笠原勢の野木、丸山兄弟の勢が互いに一歩も引かず挑み合う
その中から野木備前守の働きは鬼人の如く、これに当たる者は全て命を絶たれる
武田勢は野木備前ただ一人に切り立てられて足並み乱れた
そこに曲淵庄左衛門が兵卒を押し分けてあらわれて野木に向かい
「敵ながら天晴なる豪勇の強者、御大将の名を承らん」と言えば、野木はにっこりと笑い「某は野木備前守にて候、貴殿の名を承らん」と問えば
曲淵は馬を進めて、「某は板垣弥治郎の組頭、曲淵庄左衛門と申す者なり、いざ一手仕らん」と槍をしごいて突きかかる
備前守も槍をりゅうりゅうとしごいて、これに対する
近づいては槍を突き合わせ、飛び違えて突かんとすれば、それを跳ね上げ打ち払い、上段に槍先合わすと見えれば、たちまち下段に絡み、互角に戦う勇姿は獅子の猛り狂うに似たり
「いざ雌雄を決しようぞ」と睨み合うその時、にわかに大雨が車軸を流すかのように降り始めた
日は既に西の山に隠れ、樹木の影鬱々たる山間であれば冥々として足の立ち位置さえわからなくなれば互いに声を掛け合い
「勝負は明日決することとしよう」と左右にさっと引き上げる
下道の戦も同じく谷水溢れて足場不自由なれば、これまた物別れとして引いていく。

かくして雨の勢いは一日では衰えず、両軍共に人馬を休める
ようやく三日を過ぎて雨足次第に衰えていけば、武田勢は小坂を越えて攻め太鼓を打てば、松本勢も金鼓を打ち鳴らして攻めかかる
矢を打ちあい、槍衾を作って叩き合い、互角に渡り合い引いては押し、押しては引くき、互いに敵を一挙に討ち果たそうと思えども、一進一退の攻防なり
しかし、ここに地理案内に勝る松本勢が駆け引きに於いて、一歩先んずれば武田勢はややもすれば、討ちたてられかのように見えたり。

ここに武田勢より曲淵庄左衛門、黒糸縅の鎧、粕毛の馬に白泡食わせたる武者姿にて現れ、大音にて「野木殿はおられようか、昨日の勝負を決しもうそう、いざ出会い給え」と言えば
松本勢の中より野木備前守「おう!」と出でて、萌黄縅の鎧に黒の馬に乗り、同じく槍を構えて睨み合う
双方、聞こえたる勇士であれば、互いに手練れの穂先は鋭く突き結ぶ
猛虎、飛竜のすさまじき戦いは電光閃かせ、火花飛び散る忙しさ
突けば刎ね、引けば付け入り、しばらく勝負の行方は見えず
あまりの激しい両者の打ちあいになれば、敵味方ともに戦をしばし休めて二人の決闘を息をのんで見守る
「曲淵討たれんか、野木突かれんか」と固唾を飲む。

野木は勝敗のつかぬ戦いに苛立ち、一気に勝負を決せんと畳みかけて突きかければ、その恐るべき勢いに、ともすれば曲淵は守勢となって後ずさりする、見守る者は「あわや曲淵討たれるか」と唾を飲み込む
されども死中に僅かの隙間を見つけた曲淵が、大喝して稲妻の如く付け入り、備前守の胸元のはずれから喉をめがけて、グサっと突けば、穂先八寸ばかり突き出て、野木備前守たまらず大地にがばっと落ちるところを曲淵、馬から飛び降りて押さえて首を取る。



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