○大倉集古館『館蔵日本美術による Gold ~金色(こんじき)が織りなす異空間』
http://www.hotelokura.co.jp/tokyo/shukokan/
金色(Gold)をテーマにした美術展。ひとことでレビューするなら、予想を上回る名品揃いだった。日本美術ファンは、お見逃しなく!
会場に入ってすぐ、目に入るのが平家納経。といっても、大正時代に田中親美が制作した模本であるが、この摸本の素晴らしさは、何度繰り返しても言い過ぎにならない。現在、展示されているのは、全部で5巻。『法華経勧持品第三十三』は、見返しに、室内で金色の仏像を礼拝する老尼と尼そぎの若い女性を描く。大胆な構図、華やかな色彩、2人の女性のふくよかな横顔が、ちょっと琳派みたいだ。庭に向かって開け放たれているのは、明り障子なのかしら? 描かれた建築様式も気になるところ。→ちなみに、こちらは本物?(個人HP「平家礼賛」より)。
『妙荘厳王本事品第二十七』は、二条の光明を合掌礼拝する2人の女房を描く。周囲には五色の蓮弁が舞い散る。経文の地は、赤みの強いピンクに、金・銀・茶で、雲・山・日輪が描かれていて、「全巻の美を象徴する」という評語に恥じない。
仏像・仏具は「個人蔵」が目立った。毛彫りの『阿弥陀如来懸仏』は、平安期らしいおおらかな筆致。ピカソのデッサンみたいな趣きがある。その隣、『蔵王権現懸仏』は、銅板に図柄を立体的に打ち出したもの。はためく天衣、片足を上げて見得を切るポーズが、風神雷神図に似ていなくもない。
2階に上がると、宗達派の作品と考えられる『扇面流図(せんめんながしず)』。渦巻く波濤の上に、40余りの扇を散らしたもの。右の画面より、左のほうが波が荒い。風雨にあおられ、壊れかけた扇もあるのが、リアルでワイルド。さらに10図の源氏物語色紙が貼り込まれている。そうか、源氏物語か、と思って眺めるのだが(教養不足で)何の場面か判然としないものばかり。碁盤の上の姫君は分かったけど。
扇の上には和歌も書かれている。判読できたものを書きとめて帰り、あとで調べたら、「昨日だにとはむと思ひし津の国の生田の森に秋は来にけり」(新古289)「月をまつたかねの雲は晴れにけり心あるべきはつしぐれかな」(新古570)など、新古今の和歌だった。
その向かいには『桜に杉図』屏風。全株表現の桜と杉がほぼ交互に並んでいる。16世紀・桃山時代の作品だというが、うーむ。あまりにもモダンで、私は「モダン」という概念を間違って捉えているのだろうか?と悩んでしまう。
最後に展示室の中ほどに腰を下ろし、椿椿山の『蘭竹図』に向かい合った。左を見れば『扇面流図』、右奥には『桜に杉図』。茶と白で統一された展示室のしつらえが、金地屏風を引き立てている。しかも、展示ケースの高さが、屏風の高さにピッタリなのだ。まさに「金色が織りなす異空間」そのものを味わえて、至福のひとときであった。
帰りがけに、収穫がもう1つ。ミュージアムショップのショーケースに、前期だけの出品だった『伝源俊頼筆・古今和歌集序』(国宝)の複製色紙が飾られていた。説明が難しいが、中国ふうの衣冠を整えた官人たちの図(欄干の先に、芭蕉のような植物が見える)を赤一色で刷った紙を使っている。上記サイトの画像を見ると、さまざまな紙(雲母入りとか、摺りものとか)を継いで、筆写したものらしい。面白い~。次回はぜひ本物が見たい。覚えておこう。
http://www.hotelokura.co.jp/tokyo/shukokan/
金色(Gold)をテーマにした美術展。ひとことでレビューするなら、予想を上回る名品揃いだった。日本美術ファンは、お見逃しなく!
会場に入ってすぐ、目に入るのが平家納経。といっても、大正時代に田中親美が制作した模本であるが、この摸本の素晴らしさは、何度繰り返しても言い過ぎにならない。現在、展示されているのは、全部で5巻。『法華経勧持品第三十三』は、見返しに、室内で金色の仏像を礼拝する老尼と尼そぎの若い女性を描く。大胆な構図、華やかな色彩、2人の女性のふくよかな横顔が、ちょっと琳派みたいだ。庭に向かって開け放たれているのは、明り障子なのかしら? 描かれた建築様式も気になるところ。→ちなみに、こちらは本物?(個人HP「平家礼賛」より)。
『妙荘厳王本事品第二十七』は、二条の光明を合掌礼拝する2人の女房を描く。周囲には五色の蓮弁が舞い散る。経文の地は、赤みの強いピンクに、金・銀・茶で、雲・山・日輪が描かれていて、「全巻の美を象徴する」という評語に恥じない。
仏像・仏具は「個人蔵」が目立った。毛彫りの『阿弥陀如来懸仏』は、平安期らしいおおらかな筆致。ピカソのデッサンみたいな趣きがある。その隣、『蔵王権現懸仏』は、銅板に図柄を立体的に打ち出したもの。はためく天衣、片足を上げて見得を切るポーズが、風神雷神図に似ていなくもない。
2階に上がると、宗達派の作品と考えられる『扇面流図(せんめんながしず)』。渦巻く波濤の上に、40余りの扇を散らしたもの。右の画面より、左のほうが波が荒い。風雨にあおられ、壊れかけた扇もあるのが、リアルでワイルド。さらに10図の源氏物語色紙が貼り込まれている。そうか、源氏物語か、と思って眺めるのだが(教養不足で)何の場面か判然としないものばかり。碁盤の上の姫君は分かったけど。
扇の上には和歌も書かれている。判読できたものを書きとめて帰り、あとで調べたら、「昨日だにとはむと思ひし津の国の生田の森に秋は来にけり」(新古289)「月をまつたかねの雲は晴れにけり心あるべきはつしぐれかな」(新古570)など、新古今の和歌だった。
その向かいには『桜に杉図』屏風。全株表現の桜と杉がほぼ交互に並んでいる。16世紀・桃山時代の作品だというが、うーむ。あまりにもモダンで、私は「モダン」という概念を間違って捉えているのだろうか?と悩んでしまう。
最後に展示室の中ほどに腰を下ろし、椿椿山の『蘭竹図』に向かい合った。左を見れば『扇面流図』、右奥には『桜に杉図』。茶と白で統一された展示室のしつらえが、金地屏風を引き立てている。しかも、展示ケースの高さが、屏風の高さにピッタリなのだ。まさに「金色が織りなす異空間」そのものを味わえて、至福のひとときであった。
帰りがけに、収穫がもう1つ。ミュージアムショップのショーケースに、前期だけの出品だった『伝源俊頼筆・古今和歌集序』(国宝)の複製色紙が飾られていた。説明が難しいが、中国ふうの衣冠を整えた官人たちの図(欄干の先に、芭蕉のような植物が見える)を赤一色で刷った紙を使っている。上記サイトの画像を見ると、さまざまな紙(雲母入りとか、摺りものとか)を継いで、筆写したものらしい。面白い~。次回はぜひ本物が見たい。覚えておこう。