付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「知の逆転」 編:吉成真由美

2013-04-14 | エッセー・人文・科学
 世界を大きく動かしている現代最高の知性6人にインタビューをおこない、情報社会から教育制度までさまざまなテーマについて聞き取った記録。
 「世界一の天才って誰?」という質問があると名前の挙がる筆頭ですが、共通して受ける印象は「すごく高度なことを分かりやすく話してくれるな」ということ。半端に頭の良い人だと、分かる人にだけ分かるようにしか語ってくれませんからね。

 『銃・鉄・病原菌』で西欧文明の発展を単なる地理的条件による優位と切り捨てた進化生物学者ダイアモンドは「『人生の意味』というものを問うことに、私自身は全く何の意味も見出せません」、ただ存在するだけだと語る。
 財政赤字は幻想だと切って捨てる言語学者チョムスキーは「子供たちの自然な好奇心をはぐくみ、内面から出てくる興味に根ざした教育をすべきだという(18世紀にさかのぼれる)教育哲学」は基本的に正しいと語る。自分だって進学校で詰め込み教育された頃の記憶は何も残っていないと。
 『レナードの朝』の著者として知られる神経科医サックスが語る「教育は消極的であってはならない」というのも基本的に意味は同じ。教師から教えられ、今も心に残っているのはその情熱だけだと。
 「人工知能の父」と呼ばれるマサチューセッツ工科大学(MIT)のマービン・ミンスキーは、チェスで勝てる人工知能の開発は容易だと指摘する。そして、そんなことができても福島原発の事故に投入してドアを開けられるロボットは開発できていない。人間なら誰でもできることができるロボットを開発する方が難しいのだ。けれども、かつてはベル研究所のように「30年もかからないような仕事には手を出すな」と長期的課題に取り組むところがあったのに、今はどこも短期的に結果を出すことばかり求められていると。
 やはりMITの応用数学教授であり、インターネットにおける高速ネットワークを支配するアカマイ社の共同創立者でもあるトム・レイトンは、ネットワーク上のデータ処理の交通整理をいかにおこなうかを課題化し、(本人の意に反して)ビジネス化した。彼はビジネスの世界では「心理」も左右するけれど「数学的な訓練が、具体的な状況でビジネス上の決断を下すのに役立っている」と言います。「心理」より「論理」だと。
 DNAの分子構造の解析に貢献してノーベル賞を受賞した、分子生物学者ジェームズ・ワトソンは「できるだけ一流の人たちのいる場所に行くのがいい」といいます。トップレベルの人たちの間で揉まれてこそ、助言ももらえるし、自分の課題を見つけ出すこともできる。そしてダメなら早々に見切りをつければ良い。人はそれぞれ違う花であり、同じ者はないのだ。

 面白かったのは、アリとかハチとか魚とか、単体ではさほど知能がありそうに思えない存在が集団として優れた行動を起こすことを例に「社会は集合知能に向かうのか」という問いに対するミンスキーの返答。ブッシュもヒトラーも集団が選んだんだよというものでした。そりゃ、そうだ。SFでは集合知は超知性へと飛躍してたりするけれど、烏合の衆に転ぶ可能性の方が高いわけだ……。

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