付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「宇宙の漂流者」 トム・ゴドウィン

2013-04-24 | 宇宙漂流・遭難
 小学校とか中学の頃は、学校の図書館に江戸川乱歩の少年探偵シリーズや岩崎書店のSFロマン文庫などが置いてあり、夢中になって読んでいました。少年探偵ものは一般書店でも売っていたから、小遣いを貯めて毎月1冊づつ買って揃えたけれど、さすがにSFロマン文庫の方は本屋では見ませんでした。その中でも、トム・ゴドウィンの『宇宙の漂流者』は印象的で好きな話だったから何度でも借りた本です。卒業してからも、妹に頼んで借り出してもらってきたくらい。
 1994年の第33回日本SF大会RYUCONでのこと。深夜のコテージでみんなが車座になって、それぞれが影響を受けたSF作品について雑談してきたときに、名も知らない相手からぽろりと名前が出てきたのもこの作品でした(あのときは取り乱して申し訳ない)。

 異星人の帝国との戦いが勃発した直後。地球の植民船が拿捕され、植民不可能とみなされていた惑星ラグナロクに乗員乗客が放置された。
 女子供ばかりでは歩くこともままならぬ1.5Gの高重力で、夏は灼熱、冬は極寒、金属資源は皆無に等しく、危険な動物や病気が絶え間なく襲ってくる世界で、生存者たちは生き延び、知識を蓄え、反撃の芽を育てていく……。

 いろいろな主人公たちが精一杯、生きて、戦い、後に引き継ぐモノを残して死んでいく200年の物語なのです。

 SF小説といえばヒーローが活躍するものと思いこみかけていた身にはショックな話でしたね。もう主人公が次々に死ぬことといったら……。子供向けの全集ですから、A5サイズで200頁くらいの本ですが、本当に1章ごとぐらいに主人公が入れ替わるんです。生き延びるだけで精一杯という状況で、親から子へ、子から孫へ、今にも失われそうな科学技術を伝えながら倒れていく人々の群像劇。最終章では第6世代になっていました(数年前に『俺の屍を越えてゆけ』というゲームがありましたが、あれのSF版といえば判ってもらえるかな?)。
 大学時代に、この作品のことをふいに思い出し、その作者の他の作品を調べて納得。『冷たい方程式』の人だったんですね。
 「1人を助けようとすれば大勢が死ぬ。大勢を助けるためには1人が死ななければならない」……ああ、どちらも同じテーマだ。

 で、長いこと探していましたが、岩崎書店の2006年度新刊に、なぜか『SF名作コレクション』を発見。アマゾンも岩崎も、2005年9月刊行ってことになってるし、書店情報もそうだけれど、bk1の出版社レビューが2006.8だぞ……。それはともかく、その中の『宇宙のサバイバル戦争』がゴドウィンの『宇宙の漂流者』の改題と判明。これは、表紙イラストもタイトルも改悪だね。訳が変わってないことだけが救い。それを補って余りある復刻の価値は認めよう……でも、やっぱりセンス悪いよな。写真左はサバイバル臭さを前面に出し、SFなのかマタギの話かタイトルを見ないと分からない旧岩崎版。でも内容的には正しい。
 中イラストはB級テイスト満載で、アルバトロスフィルム配給かよ!?な復刻岩崎版。福地孝次はきらいじゃないけど、こりゃなかろう。
 なんといっても、イラストレイターに想像力だか原作の読み込みが不足している気はします。たとえば「高重力下での落石によって月面のように無数の穴が開いている」という描写に、プレーリードックの巣穴のようにほとんど同じ大きさが等間隔で並んでいるのはおかしかろう? もうちょっと大きさに差があるとか、穴位置が重なり合うとかしてる方がらしいよね。
 トップイラストは2003年にペーパーバックで復刻された中短編集(アマゾンではもうプレミア価格7000円)。タイトルは「冷たい方程式」だけれどタイトルイラストは「宇宙の漂流者」。これに続編が収録される噂もあったけれど、結局ハズレ。こちらの収録作品は『宇宙の漂流者』「The Harvest」「Brain Teaser」『発明の母』「Empathy」「No Species Alone」「The Gulf Between」『冷たい方程式』。
 『宇宙の漂流者』の続編は「The Space Barbarians」。作者が1980年に没してますのでこの2冊でサバイバーズ・シリーズはすべて。刊行は 1964年。ペーパーバックの中古で1200円くらい。長編といっても昔の長編なのでそんなに長くないから読むのは不可能じゃないけれど、シリーズ2作目のアタリって少ないよね。買って翻訳までして読む価値があるか、悩むよなあ。学生時代なら、もっと気軽に読めただろうけど……もう無理。単語も文法も頭に残ってません。そもそも読み通す根気がないと思う(和書の積ん読状態を顧みるに)。(2009.8/26改稿)

 2012年10月のSFコンベンション「ミューコン15」の古書市にてピラミッド・ブックス版を購入。横文字なんて普段読み慣れていないし、表紙や背表紙レイアウトはてんでんばらばらで、どれがタイトルやらあおり文句だかわかりにくいのがペーパーバック。その古書の山を掘り返していて、なんだかなーという1冊を発見しました。
 トム・ゴドウィンに「SPACE PRIZON」なんてタイトルの作品があったかなと裏表紙を確認。表紙に「原題:SURVIVORS」とあるのを確認して購入。たぶん読まないので、単なるコレクターアイテムです。続編の方ならがんばりますけれど……。(2012/10/21)

 AMAZONとかで検索してみると、30年前に没した著者なのに『宇宙の漂流者』の方は改題したものも含めて8種類はすぐにバージョン違いや他国語版がみつかりますが(キンドル版を除く)、『The Space Barbarians』の方は1964年版のペーパーバック1種類のみ。この差は続編がつまらなかったからじゃないかなあ……と思ったのだけれど、googleで「The Space Barbarians tom godwin」で検索したら本文がつらつらっと。まだ、著作者の死後50年も経ってないぞ……と思うけれど、PDFフリー版なんだそうな。(2013/04/24)

 ヤフオクで1973年の岩崎SF少年文庫版が出品されているのを確認し、無事落札。そこまで安くはないですけれど、ほぼ40年探し続けて神保町の児童書専門の古書店から札幌、名古屋、大阪と古書店を見つけるたびに覗いて回った手間暇を思えばタダみたいなもんです。(2022/12/02) 

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コメント (4)
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「覆面作家は二人いる」 北村薫

2013-04-24 | ミステリー・推理小説
「知識を結びつけるのが、頭の働きじゃないでしょうか?」
 匿名希望の新妻千秋の言葉。

 姓は「覆面」、名は「作家」。
 若手編集者の岡部が担当することになった、このふざけた名前の新人推理作家は、弱冠19歳で美貌の大富豪令嬢、新妻千明だった……。

 家の中では声も小さなお嬢さまが、1歩(本当に1歩だけ)自宅の門を踏み出すや、性格も一変してケンカ上等の「外弁慶」に。こんなお嬢さまが名探偵ぶりを発揮して、編集のリョースケと組んでさまざまな謎を解決していく覆面作家シリーズの1冊目。
 これは二重人格ではないかとか、いやまて門から出た途端に性格が豹変するなんて嘘っぱちで双子の娘にからかわれているんじゃないかという表題作も含めた3篇を収録。
 ミステリは気軽に読めて、読後感が愉しいのが良いと思うようになりました。

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