付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「ようこそ女たちの王国へ」 ウェン・スペンサー

2013-04-30 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「子どものとき、自分の力で何も決めさせてもらえなかったら、大人になっても、ちゃんとした決断ができない」
 子どもが何か過ちを犯したのなら、それは教訓とされなくてはならないとマザー・エルダー。

 主人公の少年はちょっと情けないところもあるけれど、やるときはやる子で誰にでも優しく、才色兼備の女性たちにモテモテ。銃撃戦あり誘拐あり国家転覆の陰謀ありで最後はハーレムエンド、イラストはエナミカツミ……というと電撃から出ていてもおかしくない「ライトノベル」の典型のように見えるけれど、ハヤカワSFの刊行。しかも主人公はヒロイン扱いです。表紙にずらりと美女美少女が並んでいるけれど、たぶん1人は男性。少なくとも基本的に髪が長いのは男性、軍服は女性。

 武器強奪犯を追跡中だったオディーリア王女が瀕死の重傷を負ったとき、それを救ったのはウィスラーの娘たちだった。
 王女にとって幸運なことに、他の農民一家と違って下級兵士出身のウィスラー一族はその豪腕で知られていた。その娘たちは物心ついたときから実弾の詰まった銃を玩具代わりに育てられており、屋敷もそこらの軍の駐屯地よりも堅固な要塞のようであった。
 ところが、ウィスラーの長男ジェリンはあと数ヶ月で16歳。その後は近在の農家に売られるか交換で婿取りする材料にされる運命だった……。

 出生する男児の数が極端に少なくて男女比が1対20。一夫多妻だけれど女権主義で、男は家の財産であり種付馬という、男女の役割が逆転した世界の冒険譚にしてボーイ・ミーツ・ガールのお話。男は髪を伸ばしてアクセサリーで美しく装い、家事や育児がその役目で、商売をしたり兵士になるのは女の仕事です。
 よしながふみの『大奥』とか、中岡潤一郎の『スカーレット・ストーム』とか、男子の出生率・生存率が極端に下がってしまった世界の話ってのは、最近ちょこちょこ見るようになりました。これも一種のフェミニズムかな。男にとって最大のファンタジーですね。んでもって、男が極端に少ない理由は説明無し。まあ、生物学的に男女比が1対1である必然はないわけで、そういう世界もあるってことで納得。
 でも、『大奥』とか『スカーレット・ストーム』は「男が急に少なくなったので、女性の社会進出が進んだ世界」という「女の地位が高くなった」の世界なのだけれど、こちらは男が種馬扱いされる「男の地位が低い」の世界なので、なかなか読んでいて胸が痛いです。女性が胸を強調したドレスで魅力をアピールするように、男が股間をアピールした服で婿さがしのパーティーに出席する光景は……。
 ただ話が面白いのでさくさく読めてしまいますね。言ってしまえば、田舎の農民一家だけれど、母親から幼子までそろって兵士であり、盗賊であり、密偵であり、暗殺者であるという、とんでもない連中がぞろぞろ宮殿に乗り込む話です。(2007/11/09 2013/04/30改稿)

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「しおかぜ荘の震災」 木村航

2013-04-30 | その他フィクション
 難病で四肢が不自由な藤島環を主人公にした『愛とカルシウム』『覆面介護師ゴージャス☆ニュードウ』に続く「しおかぜ荘」シリーズの第3弾。

 3月11日。三陸の介護施設「しおかぜ荘」にはいつもの通りの日々があった。自立を迫られる者もいれば、入所者同士でのいさかいもいつもの通り。
 だが、そんないつも通りの日常を大地震が襲う。
「逃げなきゃ!」
 でも、いったいどこへどうやって!?
 半壊した施設の中、家族の安否も周囲の状況もわからないまま、しおかぜ荘のスタッフは手探りで大地震の被害から立ち直ろうとするのだが……。 

 健康な者でさえ対応していくのが困難な状況下で、身体の汗を拭くのにもトイレにも介助が必要な入所者たちと、自らもまた被災者となった職員たちが直面した震災直後の日常を、どちらかというと冷めた視線で語っていきます。
 誰かヒーローが登場してすべて解決してめでたしということもなく、助けられる方にしても物わかりの良い善男善女とは限らず、希望はあるけれどそれはけっして楽な道ではありません。

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