
ミュルス・ミュラーの言葉。
貧しい少年レイジは、湖の畔で妖精に出会った。
妖精の名はリエル。伝説の妖精の血を引くという王家が統治する美しき妖精郷スシォルロントの第一王女であり妖精姫と呼ばれてはいたが、人間であり、レイジにとってはただのイヤな金持ちだった。
だが、リエルはそれを良しとしなかった。
少女は少年に今に見ていなさいと言い、少年は期待していると応えた。
それから歳月が経ち、少年は殺され、妖精姫は王宮で孤立していた……。
王宮に孤立しながらも状況を把握し動かそうとする妖精姫と娼婦の間を渡り歩く暗殺者の灰色狼、そしてリエルのために動く数少ない仲間たちの冒険譚。
「好きな仕事だけしていられれば気楽でいいがな」
「好きなことだけしてるやつがいるなら、縊り殺してやりたいわよ
トルゥムの将軍ミュルス・ミュラーとロントの妖精姫シグリィエル・リム・ロントの会話。
御伽噺シリーズの1冊目にして特別賞受賞作。波瀾万丈の年代記が1冊に過不足なく書き込まれ、いかにもおとぎ話的に不気味だったり残酷だったり牧歌的だったりする一方で、クライマックスの決戦も動員兵数が敵味方合わせて1000名前後と妙にリアルです。確かに面白いです。
3冊目を読んでからかなり経ってしまったので記憶が薄くなってしまいましたが、今から順番に、今度は1冊目から読んでいくことにしましょう。
さて、「ノプレス・オブリージュ」(Noblesse Oblige)という言葉があります。
「高貴な者の義務」、特権に伴う責務のことですが、ファンタジー系の小説やコミックを読んでいると、まずこの「ノプレス・オブリージュ」が引っかかります……というか、メインキャラクターが王侯貴族の出身でありながら、あくまで自己中心的に「自分が大事☆」と、家や領地を放り出して自由を求めて旅に出るような話はダメです。平凡な一市民じゃないんですから、そういう平凡な幸せを追求してもらっちゃ困ります。そのあたりをきちんと描けていない作品は、心情的に許せません。
そういう意味で、この話はそのあたりしっかり押さえられています。すべてを計算し、天下万民のためには自分自身すら手駒の1つにしてしまうリエルっていうのは理想的すぎるキャラであり、それが物語の中心であり、だからこそ正反対の立ち位置にいるレイジや他のキャラも活きてくるのですね。「期待してる。良い金持ちになれるよ、おまえなら」と。
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