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好きな本とかについて、ちょこちょこっと書く場所です。蔵書整理の見通しないまま、特にきっかけもなく08年12月ブログ開始。

記憶力を強くする

2010-11-20 19:54:32 | 読んだ本
池谷裕二 2001年 講談社ブルーバックス
きのうのつづき、もういっちょ池谷裕二。サブタイトルは「最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方」。
持ってるのは2007年3月の26刷。帯によれば、書籍としては著者のデビュー作ってことで、たぶん昨日の『進化しすぎた脳』が売れて、増刷かけた出版社の思惑にのって買っちゃった部類だな、私も。
ちなみに、出版のきっかけは、ホームページ上に展開してた記憶に関する理論をみつけた編集者が、本にしないかと持ちかけてきたらしい。
で、まあ、本としては、お手軽な科学入門系っぽく、最新理論を紹介しつつも、最後のほうには記憶力を高める具体的なハウツーにも触れるものになっている。
そもそも、脳細胞ってのは年取るにつれて壊れてくばっかり、って通説に対して、道をたくさん憶えているタクシー運転手のデータとかを集めたら、トシいってからでも脳の記憶に関するある部位だけは発達をしてることがわかった、って衝撃的事実から始まる。
んで、その記憶を司る「海馬」に関する説明や、神経細胞の解説があって、具体的な記憶力の鍛え方に至る。
記憶力を高める薬を探すという研究テーマから、肝臓に多く含まれる「K九〇」という物質を脳に直接投与すると記憶力が高まるという話が紹介されてるけど、これはまだ実用になるかどうかはわからないんで、参考までの話。
実際の生活レベルでの知識としては、カフェインがよくて、アルコールはダメと挙げてある。酒を飲むと記憶をなくすのは「アルコール性健忘症」って、ちゃんと名前があるらしい。ただし、サフランに含まれるクロシンという物質をあらかじめ摂取しとけば、アルコールを飲んでも記憶力が低下しない、なんていう役に立ちそうなことも書いてあるけど。

記憶をよくする魔法の薬を追い求める話は余談であって、本筋はその前の章の「科学的に記憶力を鍛えよう」にあると思う。
そこでは、いくつかのテクニックがあけられている。
切羽詰まってストレスがかかると記憶力は弱くなるから余裕をもったスケジュールを立てようとか。
ただ丸暗記するのではなく、法則性をつかんで、意味を理解して憶えるとか。
語呂合わせをするにも、目の記憶より耳の記憶のほうが心に残るから、声に出して憶えるとか。
自分の経験に結びつけて「エピソード記憶」として残すとか。
(記憶の段階は、原始的なほうから順に「手続き記憶」「プライミング記憶」「意味記憶」「短期記憶」「エピソード記憶」という階層になっている。)
忘却曲線の検証から、直前の4時間に憶えて勝負したほうがいいとか、また、記憶の「干渉」が起こるから無理に数を詰め込み過ぎると効果ないとか。
一方で、忘却曲線では反復すると成績が上がっていることも証明されてるから、科学的に能率的な復習スケジュールは、1週間後に1回目、その復習から2週間後に2回目、さらにその復習から1ヵ月後に3回目とすれば、脳(海馬)はその情報を必要な記憶と判断するとか。
眠ってるときみる夢は、脳の情報を整え、記憶を強化するために必須な過程であるから、物事をしっかり憶えるためには、憶えたその日に6時間以上眠ることが欠かせないとか。

でも、そんなふうにいろいろ挙げてはくれてるけど、実は著者の最も言いたいことは「やる気の問題」ってことみたいで。
トシのせいで記憶力が悪くなったと嘆くひとに対して、単なる努力不足と断じている。若いころは、記憶するために時間と労力を割いて頑張った、そんな経験があったことも忘れて嘆いてるだけでしょと。
もの忘れがひどいって言うひとに対して、「忘れてしまって思い出せないのではなく、単に初めから覚えていないということではないでしょうか」と、厳しく誤解を戒めている。
「ものごとの習得において、もっとも大切な心得は『努力の継続』である」と結論していますが、まあ、お手軽なハウツーを求めてる怠惰なひとたちには、ウケないやぁね、そういう必勝法は 大事な事実なんだけど。
ただ、「努力と成果は比例関係にあるのではなく、累乗関数の関係にある」(1→2→4→8→16→32→64→128→…というふうに伸びる)というのは、ハッとさせられる指摘ではあります。1000を目標にさんざ頑張ったけど、128までしか到達できてないときに、1000は遠いとあきらめるんぢゃなくて、さらに努力すれば、128→256→512→1024と突然視界が開けたように目標にたどりつくことができるって話、いいですねぇ。
コメント
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