四方田犬彦 1999年 平凡社
最近、なんという理由があるわけでもないが、読み返している四方田犬彦から。
エッセイ集っていうか、「SPA!」に連載していたコラムからの“精選107篇”。(←帯の表現)
あとがきによると、“連載したコラムから、アクチュアリティに関わるものだけを取り出して構成されている”とのこと。
で、どーにも情けないことに、このあたりの本って、読んだはずなのに、中身のことを全く忘れてんだよね、私。
でも、ひさしぶりに読んでみたら、予想以上に面白い。
1995年から98年にかけての連載ってことらしいんだけど、いま読むと、いろいろ歴史上の出来事(大げさ?)が思い出されるし。
香港返還とか、管直人厚相時代のHIV訴訟とか、神戸のサカキバラとか、広末涼子の早稲田入学とか、ペルー日本大使館占拠とか、オウムとか、いろいろ。
もちろん、いつものように、世界のいろんなとこを旅したときの話も面白い。
インド、インドネシア(ジャカルタ)、イラン(テヘラン)、フランス、イタリア、ポルトガル、モロッコ、キューバ。
で、全般にわたって、ときどき飛び出す、著者のグサッと刺すような意見の表明が魅力的である。
たとえば、
>そのことで思い出したが、日本人はもっと積極的に自分の意見を国外で発表するべきではないだろうか。従軍慰安婦は存在しなかったとか、アウシュヴィッツは捏造されたとか、国内でいくら勇ましい口調で叫んでみても、結局のところ、安全地帯で内弁慶な負け犬が吠えているという印象しかない。
>ぼくは性急な独立は沖縄を経済的に混乱に追いこむだけだと、考えている。もっとも妥当に思えるのは、はっきりと「一国二政府」という政治形態を採用することだろう。
>現実の社会に出てみると、頭がいい・悪いとはまったく無関係にものごとが進行していると、ただちにわかる。実際に問題になってくるのは、むしろ頭が堅いか、柔らかいかの、二通りしかないと判明するからだ。(略)頭が堅いとは、どういうことか。何ごとに対しても自分では決定せず、というより決定して責任をとることを無意識的におびえるあまりに、ロボットのように「規則ですから」という言葉だけで事態を打ち切ってしまうことだ。
>どんなに世のなかが乱れようとも、日本語から敬語が消滅することはないだろう。少なくとも日本にマゾヒストがいて、SMクラブが存在し続けるかぎりは。(略)本当の個室プレイというものは、きわめて知的な言語ゲームなのである。(略)肝心なのはこのゲームのなかでもっとも重要な位置を占めているのが言葉遣いだということである。
>ぼくが本当に考えているのは、いっそのこと戸籍制度というものを廃止してほしいということである。(略)もしどうしても国家が国民を管理しておきたいというのなら、納税証明書だけで充分ではないだろうかというのが、ぼくの意見である。
>いくら警察が摘発しても、大麻に手を出す人間は次から次へと登場している。(略)なぜマスコミはこれほどまでに大騒ぎをして事件を仕立てあげ、その主人公たちを糾弾してはばからないのだろうか。理由は簡単であって、大麻が(実際にはかけ離れているにせよ)禁じられた快楽と自由の記号とされているからである。
とかって具合に、枚挙にいとまがない。
タイトルを目次から挙げとく。
○悲惨を観光する
牛を食うインド人/イギリス人の動物愛護/ボロブドゥール観光/インドネシアの憂鬱/ジャカルタの中国人/大統領退陣/観光と旅行/南太平洋観光案内/世界のすべての悲惨/ポル・ポトの優しさ/犬と猿
○イランの純情
少年兵の記憶/東京からの帰還/金曜日の礼拝/イラン映画の新星/男だけの世界/顔を隠す女たち
○もっと遠出をした
ユダヤ教の新年/いささかボリス・ヴィアン風に/魅惑のパリ/メディアのなかのイタリア/出羽の守/ポルトガルの枯れ方/モロッコの音楽/モロッコの買い物の仕方/みんなアメリカ人になあれ/三日に一度はサルサ/「君のように生きよう」
○東アジアに生まれて
玄界灘を渡る/誰が韓国を怖がるか/ユートピアからの亡命/本当は日本人/奈良/出雲/幸福な名前
○領土とは何か
発展する大東亜共栄圏/ジェルソミーナの歩いた道/香港映画のなかのゲイ/香港返還直前/ミッキー・マオ/毛沢東グッズ/チャンプラリズム/一国二政府/沖縄とシチリア/コザの夜
○戦後というものはない
生き延びた人々/戦後などない/アウシュヴィッツの天使/ふたたびアウシュヴィッツ/満州の埋み火/『南京大』/性奴隷/草むしり
○子供は大人の父親である
HIV訴訟/授業ボイコット/頭が悪い/敬語は不滅/「ぼくがぼくであるために」/飛び級/バタフライナイフ/広末涼子
○家族を開放せよ
隠す女、隠さない女/女の本当の名字/国際結婚の今昔/見捨てられた子供/結婚の生態/ハンコと戸籍/こんな私に誰がした
○怨恨の傷跡
麻原のカリスマ/オウム裁判/AはオウムのA/われらの狂気/誰だって人質になれる/トゥパク・アマル/皆殺しの天使/グリコの余韻/冤罪
○日本人の貧しい暮らし
素晴らしい日本旅館/遷都/世間様には麻薬/笑顔の民主主義/躍進する東大生/警察はサービス業/お世話になっております/新聞の宅配/愛犬日本/背広の肩落とし/しゃがむと座る
○学者と知識人は違う
キューピー/知識人とは何か/鶴見俊輔/島田裕巳/小泉文夫/波瀾万丈の日本学者/喧嘩の仕方/編集者はどこへ消える?/ヤフー万歳
○人すべて死す
パゾリーニ/ドゥルーズ/三島由紀夫の弟/ヴァン・デル・ポスト/勝新太郎/伊丹十三/新井将敬/死者のノオト/脳死/翼の役目
最近、なんという理由があるわけでもないが、読み返している四方田犬彦から。
エッセイ集っていうか、「SPA!」に連載していたコラムからの“精選107篇”。(←帯の表現)
あとがきによると、“連載したコラムから、アクチュアリティに関わるものだけを取り出して構成されている”とのこと。
で、どーにも情けないことに、このあたりの本って、読んだはずなのに、中身のことを全く忘れてんだよね、私。
でも、ひさしぶりに読んでみたら、予想以上に面白い。
1995年から98年にかけての連載ってことらしいんだけど、いま読むと、いろいろ歴史上の出来事(大げさ?)が思い出されるし。
香港返還とか、管直人厚相時代のHIV訴訟とか、神戸のサカキバラとか、広末涼子の早稲田入学とか、ペルー日本大使館占拠とか、オウムとか、いろいろ。
もちろん、いつものように、世界のいろんなとこを旅したときの話も面白い。
インド、インドネシア(ジャカルタ)、イラン(テヘラン)、フランス、イタリア、ポルトガル、モロッコ、キューバ。
で、全般にわたって、ときどき飛び出す、著者のグサッと刺すような意見の表明が魅力的である。
たとえば、
>そのことで思い出したが、日本人はもっと積極的に自分の意見を国外で発表するべきではないだろうか。従軍慰安婦は存在しなかったとか、アウシュヴィッツは捏造されたとか、国内でいくら勇ましい口調で叫んでみても、結局のところ、安全地帯で内弁慶な負け犬が吠えているという印象しかない。
>ぼくは性急な独立は沖縄を経済的に混乱に追いこむだけだと、考えている。もっとも妥当に思えるのは、はっきりと「一国二政府」という政治形態を採用することだろう。
>現実の社会に出てみると、頭がいい・悪いとはまったく無関係にものごとが進行していると、ただちにわかる。実際に問題になってくるのは、むしろ頭が堅いか、柔らかいかの、二通りしかないと判明するからだ。(略)頭が堅いとは、どういうことか。何ごとに対しても自分では決定せず、というより決定して責任をとることを無意識的におびえるあまりに、ロボットのように「規則ですから」という言葉だけで事態を打ち切ってしまうことだ。
>どんなに世のなかが乱れようとも、日本語から敬語が消滅することはないだろう。少なくとも日本にマゾヒストがいて、SMクラブが存在し続けるかぎりは。(略)本当の個室プレイというものは、きわめて知的な言語ゲームなのである。(略)肝心なのはこのゲームのなかでもっとも重要な位置を占めているのが言葉遣いだということである。
>ぼくが本当に考えているのは、いっそのこと戸籍制度というものを廃止してほしいということである。(略)もしどうしても国家が国民を管理しておきたいというのなら、納税証明書だけで充分ではないだろうかというのが、ぼくの意見である。
>いくら警察が摘発しても、大麻に手を出す人間は次から次へと登場している。(略)なぜマスコミはこれほどまでに大騒ぎをして事件を仕立てあげ、その主人公たちを糾弾してはばからないのだろうか。理由は簡単であって、大麻が(実際にはかけ離れているにせよ)禁じられた快楽と自由の記号とされているからである。
とかって具合に、枚挙にいとまがない。
タイトルを目次から挙げとく。
○悲惨を観光する
牛を食うインド人/イギリス人の動物愛護/ボロブドゥール観光/インドネシアの憂鬱/ジャカルタの中国人/大統領退陣/観光と旅行/南太平洋観光案内/世界のすべての悲惨/ポル・ポトの優しさ/犬と猿
○イランの純情
少年兵の記憶/東京からの帰還/金曜日の礼拝/イラン映画の新星/男だけの世界/顔を隠す女たち
○もっと遠出をした
ユダヤ教の新年/いささかボリス・ヴィアン風に/魅惑のパリ/メディアのなかのイタリア/出羽の守/ポルトガルの枯れ方/モロッコの音楽/モロッコの買い物の仕方/みんなアメリカ人になあれ/三日に一度はサルサ/「君のように生きよう」
○東アジアに生まれて
玄界灘を渡る/誰が韓国を怖がるか/ユートピアからの亡命/本当は日本人/奈良/出雲/幸福な名前
○領土とは何か
発展する大東亜共栄圏/ジェルソミーナの歩いた道/香港映画のなかのゲイ/香港返還直前/ミッキー・マオ/毛沢東グッズ/チャンプラリズム/一国二政府/沖縄とシチリア/コザの夜
○戦後というものはない
生き延びた人々/戦後などない/アウシュヴィッツの天使/ふたたびアウシュヴィッツ/満州の埋み火/『南京大』/性奴隷/草むしり
○子供は大人の父親である
HIV訴訟/授業ボイコット/頭が悪い/敬語は不滅/「ぼくがぼくであるために」/飛び級/バタフライナイフ/広末涼子
○家族を開放せよ
隠す女、隠さない女/女の本当の名字/国際結婚の今昔/見捨てられた子供/結婚の生態/ハンコと戸籍/こんな私に誰がした
○怨恨の傷跡
麻原のカリスマ/オウム裁判/AはオウムのA/われらの狂気/誰だって人質になれる/トゥパク・アマル/皆殺しの天使/グリコの余韻/冤罪
○日本人の貧しい暮らし
素晴らしい日本旅館/遷都/世間様には麻薬/笑顔の民主主義/躍進する東大生/警察はサービス業/お世話になっております/新聞の宅配/愛犬日本/背広の肩落とし/しゃがむと座る
○学者と知識人は違う
キューピー/知識人とは何か/鶴見俊輔/島田裕巳/小泉文夫/波瀾万丈の日本学者/喧嘩の仕方/編集者はどこへ消える?/ヤフー万歳
○人すべて死す
パゾリーニ/ドゥルーズ/三島由紀夫の弟/ヴァン・デル・ポスト/勝新太郎/伊丹十三/新井将敬/死者のノオト/脳死/翼の役目