白川方明(まさあき)さんの現代の金融政策という本を読んでみた。といっても、斜め読みだが。
白川さんは、ご存知のとおり、当初副総裁になられる予定だったが、民主党の財務省出身者はダメ!理論?により、総裁になられた方だ。そういった意味では、棚ボタで、総裁になった方ではあるが、この本を読むと、白川さんが、たいへんな理論家でもあり、実戦経験豊富な実務家でもあり、総裁として最適の人材であったのではないかと思えてくる。
この本は、白川さんが日銀を一旦退職した後、京都大学大学院教授であった時代に著した本であり、教科書にも使えるような内容だが、実務経験から得た議論も豊富で、ひじょうに面白いし、参考になる。
この本に書かれたような論理と、経験を駆使すれば、日本のグリンスパンになるのも夢ではない?
しかし、白川さんがこの本を書いている時は、まさかその発行時に自分が日銀総裁になっているとは思わなかったろう。そして、こんなに店頭に並ぶとは。
題名のとおり、中央銀行とは何ぞや?金融政策とはどうあるべきか?というテーマで、総合的な議論が展開されている。
『中央銀行は自らのバランスシートの大きさや構成を変えることによって政策を実践する。』
中央銀行の機能は、①決済サービスを提供すること②『最後の貸し手』(Lender of Last Resort)として流動性を供給することにより、金融システムの安定を維持すること③物価の安定を実現する役割、すなわち、金融政策を運営する役割④金融機関に対する規制・監督を行うこと⑤『政府の銀行』にまとめられる。当たり前のことなのかは、知らないが、国によってもばらばらだし、そもそも中央銀行という概念が固まってきたもの、そう古いことではないそうだ。
そして、中央銀行の役割は、①通貨あるいはより一般的に金融システムそれ自体が経済活動の不安定化要因となることを防ぐこと。②物価の安定を実現すること。という。
こんな感じで、白川氏の持論が次々と展開されていく。
望ましい金融政策運営の原則は、
①政策金利の変更は、物価安定を通じて持続的な成長を実現するという目的に照らして判断されなければならない。
②(他の条件が同一であれば)政策金利の変更は急激に行うのではなく、徐々に小幅で行うほうが望ましい。他方、経済情勢が急激に変化するときには、政策金利も短期間に大幅に変更する必要がある。
という。
よくわからないが、物価安定が第一で、メリハリをつけた金利操作でそれを実現していくのだということを言っているのだろう。
バブル期の某新聞の社説がご丁寧に載せられているが、バブルの中では、バブルなのかどうかの判断は、誰もできていなかったことがわかる。今は、対応が遅かったと非難されているわけだが。この記事を載せたのは、その判断がいかに難しかったかを言いたかったのだろう。アメリカのサブプライム問題も全く同じである。
本書を読むと、経済学というのは、試行錯誤の繰り返しで、もっともらしく論じられている理論も、実証されず消えていったものが数多いことがわかる。科学実験のように、その場で実証はできないのが難しいところ。データ把握の方法自体が試行錯誤なのだ。
そういった中、中央銀行のTOPはやはり知識と経験の両方が必要なポストだということが、本書を読むとわかる。そのどちらかでも欠けた場合、政治や、世論に左右され、結果は、思わぬ方向にということになりかねない。
とは言っても、全く政治と無縁でもいられない。妥協ではなくて、政治との折り合いをいかにつけられるかが、白川さんが日本のグリンスパンになれるかのポイントだろう。グリンスパンは、理論家だが、政治に、どっぷり漬かっていたキャリアを持つ。