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会社法改正案が衆院本会議審議入り!―中小企業への影響はいかに?―

2019-11-21 12:00:00 | 19期生のブログリレー

みなさん、こんにちは。19期生の福嶋です。

 会社法改正案が衆議院本会議で審議入りしたとのニュースが報じられました。

 「会社法改正案が衆院で審議入り ガバナンス強化急ぐ」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52082030S9A111C1PP8000/

 自社の経営や支援先の経営にどのような影響が生じるのか気になる方もいらっしゃるかと思います。

私は、弁護士をしていることもあり、改正の経緯をフォローしてはいましたが、このタイミングで、自身の頭の整理もかねて、会社法改正の内容をざっくり再確認しつつ、中小企業への影響との観点からの若干のコメントを記載したいと思います。

 長めの記事となりましたので、以下の目次を活用して、気になるところだけでもざっと目をとおしていただければと思います。

 

目次

 1      法律案提出の理由

 2      概要とコメント

  (1) 株主総会資料の電子提供制度の創設

  (2) 株主提案権

  (3) 取締役の報酬等

   ア 取締役の報酬等の決定方針

   イ 金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め

  (4) 補償契約

  (5) 役員等のために締結される保険契約

  (6) 業務執行の社外取締役への委託

  (7) 社外取締役の設置義務

  (8) 社債の管理

  (9) 株式交付

  (10) 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解

  (11) 議決権行使書面の閲覧等

  (12) 会社の登記に関する見直し

  (13) 取締役等の欠格条項の削除及びこれに伴う規律の整備

 

 

1      法律案提出の理由

 今回の会社法改正案の提出理由は、株主総会の運営及び取締役の職務執行の一層の適正化等を図ることを目的とした、各種の制度や規律の導入です。

  「会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図るため、株主総会資料の電子提供制度の創設、株主提案権の濫用的な行使を制限するための規定の整備、取締役に対する報酬の付与や費用の補償等に関する規定の整備、監査役会設置会社における社外取締役の設置の義務付け等の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」(「会社法の一部を改正する法律案」の「理由」より引用)

 

2      概要とコメント

 (1) 株主総会資料の電子提供制度の創設

 現行法では原則として書面(紙)での提供が必要な株主総会の招集手続に関する書類を、あらかじめ定款で定めることによって、電子的な方法で提供することが可能となる制度が創設されました。

  株主と経営者が同一(所有と経営が未分離)であったり、経営者の家族や知人といった人的な関係の強い少数特定の株主構成であったりといった場合は、そもそも株主総会招集手続を省略したり、株主総会の開催自体を省略(書面決議)したりといった方法で対応していることも多いかと思います。

 株主総会資料の電子提供制度の創設については、中小企業にはそれほど影響がない(メリットがない)改正かと思います。

 株主がたくさんいる上場会社などの総会招集手続の効率化のための改正といえるでしょう。

 

(2) 株主提案権

 これまで特段制限のなかった株主総会で株主の議案の提案数が10までに制限されました(取締役会設置会社のみ)。

 また、専ら人の名誉を侵害等し、または自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的での議案の提案および株主総会の適切な運営が著しく妨げられ、株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる議案の提案を制限することが明記されました。

  そもそも、所有と経営が未分離な中小企業であれば、10を超える議案の提案が制限されても株主にも会社側にも特段問題はないものと思います。目的等による議案の提案の制限については、内容自体は当たり前のことを明確化しただけで異論はないかと思いますが、強いて言えば、(親族間の)経営権争いが生じた会社などにおいて、(経営の後継候補の)株主の正当な提案を会社側(現経営者)が却下するために利用されないかとの心配がなくはないかと思います。

 

(3) 取締役の報酬等

ア 取締役の報酬等の決定方針

 総額を株主総会で定めて取締役の個人別の報酬等については、取締役会や代表取締役に一任とされることが多かったですが、一定の株式会社について、取締役の個人別の報酬等の内容についての決定に関する方針まで株主総会で定めることが義務付けられました。

  この規定が適用される一定の会社は、①監査役会設置会社(譲渡制限を付していない株式を発行している会社であり、かつ、大会社であるものに限られる。)であって、金商法によって有価証券報告書の提出義務を負っているものか、または、②監査等委員会設置会社に限られるので、中小企業に適用されることはほぼないと考えてよいかと思います。

 イ 金銭でない報酬等に係る株主総会の決議による定め

 金銭でない報酬等にかかる(定款で定めていないときの)株主総会の決議事項として、報酬等のうち当該株式会社の募集株式/募集新株予約権については、当該募集株式/募集新株予約権の数の上限などが規定されました。また、取締役が引き受ける当該株式会社の募集株式/募集新株予約権と引換えにする払込みに充てるための金銭についても、当該株式会社の募集株式/募集新株予約権の数の上限などを決議することが必要になります。

  中小企業においても、報酬として自社の株式/新株予約権を報酬とすることはあると思いますので、その場合は、法定の事項の決議が漏れないように注意する必要がありそうです。

 

(4) 補償契約

 株式会社が、役員等に対して、①当該役員等が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及にかかる請求を受けたことに対処するために支出する費用、または②当該役員等が、その職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における、(ⅰ)当該損害を当該役員等が賠償することにより生ずる損失、もしくは(ⅱ)当該損害の賠償に関する紛争について当事者間に和解が成立したときは、当該役員等が当該和解に基づく金銭を支払うことにより生ずる損失、の全部または一部を当該株式会社が補償することを約する契約(補償契約)についての規定が新設され、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)での内容の決定、補償契約があっても補償されない場合、補償がなされた場合の事後報告などが規定されました。

 会社(株主)と取締役との間で利益が相反しうる補償契約について、その内容や手続的な事項を定めるものです。中小企業においても、役員等に抜擢したい社員や外部の人材がその責任の重さから二の足を踏む場合に、事前に補償契約を締結することで、その法的な責任と心理的な負担を軽減して、役員等への就任を促すような使い方ができそうです。

 

(5) 役員等のために締結される保険契約

 株式会社が、保険者との間で、①役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと、または②当該責任の追及にかかる請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が塡補すること、を約する保険契約であって、役員等を被保険者とするもの(法務省令で定めるものを除く。「D&O保険」)についての規定が新設され、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)で内容を決定することなどが規定されました。

 こちらも会社(株主)と取締役との間で利益が相反しうるD&O保険について、手続的な事項を定めるものです。補償契約と同様、中小企業においても、利用できそうです。

 

(6) 業務執行の社外取締役への委託

 株式会社が社外取締役を置いている場合で、当該株式会社(株主)と取締役との利益相反状況があるときに、当該株式会社が、社外取締役に対して、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを委託することができることを明記し、併せて、当該業務執行によって、社外取締役の欠格事由とならないことも確認する規定が新設されました。

 現行法では、株主総会への事前の説明と承諾が必要な利益相反行為(会社法356条1項2号および3号)に限らず、マネジメント・バイ・アウト等、会社と業務執行者との利益相反が問題となる場合に、社外取締役に委任して実施できることになるので、社外取締役を設置している中小企業においても利用できそうです。

 

(7) 社外取締役の設置義務

 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金商引法によりその発行する株式について有価証券報告書を提出しなければならない株式会社は、社外取締役を置くことが義務付けられました。

 中小企業ですと、上記に該当することはないかと思います。

 

(8) 社債の管理

 社債管理者を設置しないでよい場合に、第三者である社債管理補助者を設置して、破産債権としての届出をなす権限や、会社と社債管理補助者との委託契約の範囲内での社債にかかる債権の弁済を受ける権限を与えて、社債の管理が円滑に行われるように補助する制度が新設されました。

 また、社債権者集会の決議の省略(書面決議)の規定が新設されました。

  中小企業ですと、社債を発行することはあまりないかと思いますので、影響はないでしょう。

 

(9) 株式交付

 株式会社(A社)が、他の株式会社(B社)をその子会社とするために、当該他の株式会社(B社)の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社(A社)の株式を交付するという株式交付制度が新設されました。

 株式交付は、(現金ではなく)自社株を対価とする企業買収の手法となります。株価の算定など難しいところもありますが、キャッシュに余裕がない中小企業間での企業買収(事業承継)でも利用できそうです。

 

(10) 責任追及等の訴えに係る訴訟における和解

 株式会社等が、当該株式会社等の取締役、執行役及び清算人ならびにこれらの者であった者の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解をするのに同意を取得することが必要な者を定める規定が新設されました。監査役設置会社については、監査役(複数いる場合は各監査役)の同意が必要になります。

 中小企業においても、株主の要請などによって、会社がその取締役等を訴えた場合で、最終的に和解で終了させることはありえるかと思います。その場合、監査役が複数いる場合は、全員の同意を得るのを忘れないようにする必要があります。

 

(11) 議決権行使書面の閲覧等

 株主が、議決権の行使書面の閲覧等を請求する場合に、この請求の理由を明らかにすることが求められるようになりました。また、当該請求を拒否できる事由が新たに定められました。

 不当な目的での議決権行使書面の閲覧等を制限するための規定ですので、基本的には問題がないものと思います。中小企業においては、会社と株主間に対立がある局面で、議決権行使書面の閲覧等が求められた場合に、新設された拒否事由を理由に会社側が不当にその閲覧等を拒むことがないかとの懸念はあるかと思います。

 

(12) 会社の登記に関する見直し

 新株予約権に関する登記事項が変更され、また、会社の支店の所在地における登記は廃止されました。

 中小企業において新株予約権を発行しているところはまれかと思いますが、支店を出している場合は、支店の所在地での登記が不要になるので、手間とコストが軽減できそうです。

 

(13) 取締役等の欠格条項の削除及びこれに伴う規律の整備

 取締役等の欠格事由とされていた成年被後見人および被保佐人であることが削除され、成年被後見人や被保佐人でも、各々(成年被後見人の同意を得た上での)成年後見人が成年被後見人に代わって取締役等への就任の承諾をすることや保佐人の同意を得ることで取締役となることができるようになります。

 

今回の記事は、以下の法務省HP<http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html>掲載の法律要綱と新旧対照条文をベースに、気になったところは、会社法制(企業統治等関係)部会資料<http://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_00297.html>なども参照しつつ書いています。

 

詳しく確認したい方は、これらの資料のほうにあたってみてください。

 

以 上

 

コメント (1)
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