北大大学院理学研究院地震火山研究観測センターの西村裕一先生を訪ねて津波防災について意見交換をしてきました。
西村先生は、津波に関する津波堆積物を長年研究されていて、この道では第一人者。
道庁が津波被害想定の見直しを、津波堆積物をベースにして大きく見直したことについて意見を伺いに来たのです。
…と言いながら、実はこの西村先生、ネットでの写真を見る限り、私が北大に入学した時の教養課程で同じクラスだった方ではないか、とずっと思っていたのです。
そこで事前にメールで連絡を取ってみると、「ええ?あのドイツ語が得意だった小松さんですか?懐かしいですね」という答えが返ってきて、やはり思った通りの元学友。
北大の研究室を訪ねましたが、会っていない32年間が一瞬にして吹っ飛びました。
「なんだー、釧路にいたんだ。釧路へはしょっちゅう津波災害の講演や地域での勉強会に行っていたのに、小松さんがいるとは思いもよらなかったよ」
「こちらは、(多分あの西村さんじゃないかなあ)と思っていたけどね(笑)。それにしても心強いよ。いろいろと津波についてアドバイスをお願いします」
「もちろんですよ」
※ ※ ※ ※
「今回の道庁が公表した津波被害想定は、これまでに比べると随分大きな津波を想定しましたが、これについてどう思いますか?」と早速訊いてみました。
すると、「想定というと、これしかない、と言う印象になりますが、全ては前提となる条件次第である幅を持った答えになりますし、所詮は仮定を重ねた結果でしかありません。だから、津波の高さ一つを考えても、ある幅を持たせた公表になるべきだと思います。雌阿寒岳防災を考える時も、想定とは言わずにシナリオを言う言い方をしているんです。これなどは参考になる考え方だと思います」
「私はそもそも津波堆積物なるものを見たことがないので、どうにも信じられないのですが…」
すると西村先生は、「じゃあ見に行きましょう」と言って、別の部屋に案内してくれて、板に貼り付けた地層のサンプルを見せてくれました。

「これはジオスライサーという、薄い調査用具を土壌に突き刺してそれをジャッキで持ち上げて引き抜きます。それの片面にメッシュと樹脂を塗りつけて固めると、これで土壌サンプルが出来上がります」
「ははあ、なるほど。初めて見ました」

【これがジオスライサー】

【このジャッキで持ち上げる】
「このなかには、砂など海由来と思われる地層もあれば、樽前や駒ヶ岳などの火山噴火に由来する火山灰も見られます。これで大まかに何百年前の地層がどこにはいっているかが分かるので、それよりは新しいとか古いとか言うことが分かるんです」
「なるほど、では海の砂が厚いということは津波が大きかったと言うことですか?」
「そうではありません。津波が堆積物を残すためには陸上の地形が重要になります。平らなところにはある程度残りやすいですが、斜面だと流れてしまいます。また窪地だったら、津波の時だけではなく、その後からも流れ込んだりもします。それよりは、堆積物があるところがどのくらいの標高か、ということが重要になってきます」
「高いところに堆積物があれば高い津波が来たと言うことですか」
「ところがそれもまた簡単ではありません。それは津波が来た時に、その地層はどれくらいの標高だったかを正確に押さえることが難しいからです。だから、研究調査では一点のみのサンプルで全てを推察するようなことはありません。何点もサンプルを取ることで初めて全体像が少しずつ明らかになってくるのではないか、という感じで、極めて慎重な姿勢で臨むべきだと思っています」
「しかし今回は、その津波堆積物の分布によって津波のモデルを想定し、さらにそれから発生する津波を想定したことで、随分と大きな津波が来るという想定が打ち出されました」
「今問題なのは、『想定外を無くす』というある種の殺し文句のために、想定を大きめに大きめにとって、どんな被害も包含するような過大な想定に偏っているのではないか、と危惧されることです。もう少し科学的な視点を加えることで、冷静で慎重な視点を守る方が良いと思います」
被害想定を大きく見ておけば、想定外はなくなるだろうというのは案外安易な考え方ではないか、とかねがね私も考えていたところです。
西村先生は、「つなさっぷ」という活動の中で、津波防災や避難行動に対する住民との対話などに尽力されています。
今後は是非釧路での活動を充実させて頂くようお願いをしてきました。
それにしても持つべき者は友だちです。
三十数年ぶりの再会がこういう形になるとは。
次回は釧路での再会を約束しました。地震津波対策を充実させて行かなくては、ね。

【ここに海由来の砂の層がある。プロにはすぐ分かるらしい】
西村先生は、津波に関する津波堆積物を長年研究されていて、この道では第一人者。
道庁が津波被害想定の見直しを、津波堆積物をベースにして大きく見直したことについて意見を伺いに来たのです。
…と言いながら、実はこの西村先生、ネットでの写真を見る限り、私が北大に入学した時の教養課程で同じクラスだった方ではないか、とずっと思っていたのです。
そこで事前にメールで連絡を取ってみると、「ええ?あのドイツ語が得意だった小松さんですか?懐かしいですね」という答えが返ってきて、やはり思った通りの元学友。
北大の研究室を訪ねましたが、会っていない32年間が一瞬にして吹っ飛びました。
「なんだー、釧路にいたんだ。釧路へはしょっちゅう津波災害の講演や地域での勉強会に行っていたのに、小松さんがいるとは思いもよらなかったよ」
「こちらは、(多分あの西村さんじゃないかなあ)と思っていたけどね(笑)。それにしても心強いよ。いろいろと津波についてアドバイスをお願いします」
「もちろんですよ」
※ ※ ※ ※
「今回の道庁が公表した津波被害想定は、これまでに比べると随分大きな津波を想定しましたが、これについてどう思いますか?」と早速訊いてみました。
すると、「想定というと、これしかない、と言う印象になりますが、全ては前提となる条件次第である幅を持った答えになりますし、所詮は仮定を重ねた結果でしかありません。だから、津波の高さ一つを考えても、ある幅を持たせた公表になるべきだと思います。雌阿寒岳防災を考える時も、想定とは言わずにシナリオを言う言い方をしているんです。これなどは参考になる考え方だと思います」
「私はそもそも津波堆積物なるものを見たことがないので、どうにも信じられないのですが…」
すると西村先生は、「じゃあ見に行きましょう」と言って、別の部屋に案内してくれて、板に貼り付けた地層のサンプルを見せてくれました。

「これはジオスライサーという、薄い調査用具を土壌に突き刺してそれをジャッキで持ち上げて引き抜きます。それの片面にメッシュと樹脂を塗りつけて固めると、これで土壌サンプルが出来上がります」
「ははあ、なるほど。初めて見ました」

【これがジオスライサー】

【このジャッキで持ち上げる】
「このなかには、砂など海由来と思われる地層もあれば、樽前や駒ヶ岳などの火山噴火に由来する火山灰も見られます。これで大まかに何百年前の地層がどこにはいっているかが分かるので、それよりは新しいとか古いとか言うことが分かるんです」
「なるほど、では海の砂が厚いということは津波が大きかったと言うことですか?」
「そうではありません。津波が堆積物を残すためには陸上の地形が重要になります。平らなところにはある程度残りやすいですが、斜面だと流れてしまいます。また窪地だったら、津波の時だけではなく、その後からも流れ込んだりもします。それよりは、堆積物があるところがどのくらいの標高か、ということが重要になってきます」
「高いところに堆積物があれば高い津波が来たと言うことですか」
「ところがそれもまた簡単ではありません。それは津波が来た時に、その地層はどれくらいの標高だったかを正確に押さえることが難しいからです。だから、研究調査では一点のみのサンプルで全てを推察するようなことはありません。何点もサンプルを取ることで初めて全体像が少しずつ明らかになってくるのではないか、という感じで、極めて慎重な姿勢で臨むべきだと思っています」
「しかし今回は、その津波堆積物の分布によって津波のモデルを想定し、さらにそれから発生する津波を想定したことで、随分と大きな津波が来るという想定が打ち出されました」
「今問題なのは、『想定外を無くす』というある種の殺し文句のために、想定を大きめに大きめにとって、どんな被害も包含するような過大な想定に偏っているのではないか、と危惧されることです。もう少し科学的な視点を加えることで、冷静で慎重な視点を守る方が良いと思います」
被害想定を大きく見ておけば、想定外はなくなるだろうというのは案外安易な考え方ではないか、とかねがね私も考えていたところです。
西村先生は、「つなさっぷ」という活動の中で、津波防災や避難行動に対する住民との対話などに尽力されています。
今後は是非釧路での活動を充実させて頂くようお願いをしてきました。
それにしても持つべき者は友だちです。
三十数年ぶりの再会がこういう形になるとは。
次回は釧路での再会を約束しました。地震津波対策を充実させて行かなくては、ね。

【ここに海由来の砂の層がある。プロにはすぐ分かるらしい】