農林水産品の一次産業が盛んな宗谷地域での有望資源の一つが「勇知いも」。
これは稚内の勇知地区というところで作られているジャガイモなのですが、「勇知」という地名を地域ブランドとしていて、糖度が高く甘いジャガイモだというので人気なのです。
稚内の農業と言えば、今は酪農が中心となっていますがこれは酪農業への転換を国の農政が進めたためだから。
実は明治四年というまだ入植がはじまった初期に、開拓判官がこの地を訪れてジャガイモが作られていたという記録が残されています。
その後明治の末期に樺太から持ち込まれた樺太いもを「勇知いも」と呼んで作っていたのですが、「こんなに美味いと稚内で評判なのだから都会なら売れるのではないか」と試しに東京や大阪に送ってみたところ、案の定大人気になり「大量に送ってくれ」という声がわきあがったそう。
その後勇知いもは道立農業試験場で研究改良が進められ、寒さに強く収量が多い改良種「農林一号」として開発され、昭和初期には稚内の特産物として全国にその名を知られるようになりました。生産ピークの昭和29年には2380トンを生産したと言います。
ところが生産過剰や冷水害が相次ぐ中、国は酪農業への転換政策を進め、次第に生産量は減少の一途をたどり昭和47年にはとうとう農産物としての取り扱いがなくなりました。
近年はわずか数軒の農家が往年の稚内の名産ブランドだった幻の「勇知いも」の復活を夢見て栽培に取り組んでいましたが、平成20年に稚内の有志が「わっかない地産地消研究会」を立ち上げて復活に向けた活動を開始し、売り先の開拓などに力を入れています。
栽培するジャガイモの品種は、農林一号、きたあかり、アンデスレッド、メークイン、さやあかね、インカのめざめの六種類。これらが、降水量が少なく晴れの日が多い勇知地区において環境に配慮した「クリーン農業」で育てられた「勇知いも」として復活しつつあります。
勇知地区で作られるいもがなぜ美味しいかというと、利尻富士が西側にあるために雨雲の雨が利尻富士に落ちてしまい、この地区は雨が少なく晴れが多いという土地柄のおかげで、道内他地域にジャガイモに比べてもデンプン質の含有量が多いのだそう。
糖度も高く甘いという評判で、「勇知いも」という商標登録も紆余曲折ある中で取得に向けて手続き中とのことですよ。
「勇知いも」って稚内ではよく聞くのですがその正体がわからないでいました。今日詳しく話を聞かせていただいてやっと得心がいきました。これは応援したいですね。
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そしてそんな勇知いもの付加価値をさらに高めようというのが自然冷熱利用の取り組みです。
声問地区にある雪氷冷熱の実証実験施設では、屋根のかかったかまぼこ型の倉庫の中に水の入った水槽が一杯に置かれていて、これを冬の間に倉庫の扉を開けておくことで凍らせます。
氷ったところ扉を占めれば厚い断熱材の張られた倉庫の中で氷の冷気が長持ちし、この空気をダクトで取り出して勇知いもの置かれたコンテナ倉庫に送り込んで寝かせて甘みを増加させようというのです。
勇知という地域特性に加えて、稚内の冷気が甘さを増した「勇知いも」。宗谷地域のブランド産品になっていく日は近いことでしょう。