釧路にいた当時ある企業の支店長として一緒だった知人が訪ねて来てくれました。
お互いに転勤族であり、同じ時期に同じ土地で飲み交わした縁というのはそれはそれで続くものです。
彼は釧路をこよなく愛していて、同窓会の会合を釧路へ引っ張ってきたのだそう。
「小松さんも知っている料亭のKへ連れて行って、そのあとで炉端のお店で二次会をやりました。カニや釧路の新鮮な魚を食べさせたらみんなすっかり喜んで、釧路のファンが一気に増えました」
「それはいいですねえ」
「そこで飲み食いした友人たちは、彼らの友達に『釧路へ行ったら料亭のKへ行くといいよ』と言って回るわけですよね。そうするとさらに釧路のファンが増えるというわけです」
「おっしゃるとおりです。まずはそこに住んでいる人たちが地元を味わって、納得できたお店へ連れて行く。そこで初めて口先だけではない地域の良さが伝わるんですね」
すると彼はこう続けました。「実は私、釧路にいた時はほとんど札幌の自宅に帰省せずに、毎月妻を呼び寄せました。妻はひと月のうちに習慣を釧路で過ごして、その間あちこちをドライブしたり居酒屋めぐりをしたりしてもてなしたんです。そうやって道東のほとんどのエリアを観光で巡ることができて大満足でした」
「あ~、それはよくわかります。勝手知ったる自宅で過ごすよりはせっかく縁ができた地域で過ごし地域を味わう方が面白いことに巡り合えると思いますよ」
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「それで思い出したんですが、今週末に稚内で『白夜祭』というイベントがあるんです。夏至に合わせて朝早くから明るくなり、夕方も遅くまで明るい時期のイベントです」
「はい」
「今年が二回目なんですが、事前に100円券十枚のチケットを買って駅周辺の会場で飲食をするというシステムなんです。それが昨年はあまり関心がなかったのか、わが部ではあまり券が売れなかったんだそうです」
「なるほど」
「それを今年は部下の一人が『もっと積極的に券を買って参加しよう』と声を出してくれました。私も、券の売れ行きは強制できないけれど、せっかく稚内にいるときのイベントに共感して参加することが、言葉だけではなく地域に寄り添うという姿勢だと思う、と言い続けていたら、今年は昨年の十倍以上の券の予約が入っているそうです」
「それはすごいですね」
「『ビヤガーデンがありますが、寒いんですよ(笑)』という人もいましたが、そういう寒さとかの思い出も含めて地域を味わうということなんだと思うんです。服の下に厚着をしてせいぜいイベントを楽しもうと思います」
「それはいいや、ははは」
転勤族にとっては今年が最後かもしれない地元での一日を存分に味わって思い出を作るのも転勤の醍醐味。稚内だけではなく町村部でのイベントもいろいろと観てみると楽しいと思いますよ。