「小松さん、『震災あんぜんパック』って知ってますか?」
そう訊いてきたのは年末の挨拶で稚内へ来てくれた、札幌のシンクタンカーの知人のAさんです。
「ええ?知りません。保険か何かですか?」
「似たようなものですがちょっと違います。大震災の対策の順番ってご存知ですか。まずは①家の耐震化、②家具の転倒防止、③水や食料、携帯トイレの備蓄、そして四番目が④避難対策です」
「なるほど」
「大きな震災が起きた時には、大都会では大勢の避難民が発生しますよね。しかし現実には避難所の状況は劣悪です。大人二人で畳一枚分のスペースしかないとか、トイレに行くのにも気が引けて水を飲まないようになって体調を崩すとか、プライバシーがないとか、とにかく命は助かっても心休まるような環境は到底得られないでしょう。お年寄りや女性、小さな子供さんなどのストレスは甚大です。
その大変さに気が付いたのが東京の早稲田商店街の人たちで、彼らは新潟県へ飛び、そこの商店街の人たちに相談をし、いざというときに避難先としての連携を提案しました。そしてその活動が今日、NPO法人全国商店街まちづくり実行委員会による『震災あんぜんパック』という形になったんです」
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実際にどういうシステムかというと、被災時に避難疎開先として受け入れてもらうことを前提に、事前に受け入れ先の自治体や商店街に対してお金を払います。もしその年に何もなければ、受け入れ先はその分で自治体から地元の特産品を『ご無事特産品』として送ってくれます。
震災が実際に起きれば、事務局が手筈を整えて疎開先が受け入れてくれるはずです。いざというときに疎開してそこで何か月もの間暮らすことを考えると、どんなところかを事前に知っておくことには意味があります。
それが地元の特産品として送られてくるだけではなく、興味があるなら疎開先の町を訪ねるツアーを行うことも良いでしょう。そこで地域の人たちと触れ合っておけば、いざというときも心強い絆が生まれるでしょう。
こうした絆を普段のまちづくりに繋げて行けばよいのではないか、というのが知人の考えです。
現在この受け入れ先として名乗りを上げているところはそう多くはありません。温泉やホテルなどの名が見えますが、北海道では滝川市だけです。
こうした都会の住民たちとの絆を形成することは普段からの交流につながり地元を知ってくれる人たちを増やし、観光振興にもつながるかもしれません。
また本当に震災が発生して疎開してくれる人がいたならば、災害時の受け入れだけではなくそのまま定住してもらっても構いません。
地域の人口が減少に向かう今日、地元のファンを増やす努力の一つとしてなんでもやれることはやった方が良いのではないでしょうか。