こっぱもちの部屋

主に、読書感想のブログです。他に、日常生活で楽しかったことを書くと思います。

『七月に流れる花』恩田陸

2017-02-16 19:43:21 | 読書感想
大木ミチルは中学一年生。
六月初めというはんぱな季節に、夏流(かなし)という町に引っ越し、三中に通うこととなった。
時期的に、クラスの中ではとっくに「仲良し」グループが出来上がっていて、親しい友人をこしらえることができず、そのまま一学期が終わってしまった。

この学校であった奇妙なことに、美術の授業の課題で「夏の人」というものがあり、ミチル以外のクラスメイトは、緑色の人間を描いていたということがあった。
その後ミチルは、本当に「みどりおとこ」と呼べる人物に、追いかけられたのだ。

その上「夏流城」という城で林間学校という名目のもと、五人の少女と共にひと夏を過ごしたミチルは 、そこでも奇妙な風習に戸惑うこととなる。

出だしからしてホラー風味満載のこの物語。
不気味な出来事が続きますが、ミチルだけに隠された秘密が明らかになることで、暗闇だった視界が開けるように真実が見えてきます。
本当のことが分かっても、ある意味、世界は暗いままかもしれませんが、きっとミチルたちが、いつか打開策を見つけると信じたいです。
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『路地裏のほたる食堂』大沼紀子

2017-02-15 19:42:27 | 読書感想
久住亘は、四歳の夏の日に人を殺しかけた。
そのことは、狭い田舎町の隅々まで知れ渡り、あからさまに後ろ指をさされるようになった。

亘の個人的見解「人生は五センチで変わる」という実感は、亘が落としたレンガがあと五センチ軌道がずれていたら、ご隠居の頭を直撃し、彼を亡き者にしていたかもしれず「たった五センチ」で亘は人を殺さずにすんだという意味なのだった。

とはいえ、亘は東京で国立大学の三年生をやっており、母親の意向に教員資格を取ることというのが無ければ、教育実習ででも里帰りなどしたくはなかった。

里帰り早々、町では猫缶騒ぎなるものが起きていたり、妙な屋台が出没していたり、亘の過去を知っていそうな美少年が現れたり、しかも、亘の幼なじみが騒ぎに首を突っ込もうとしたりと、散々。
果たして、亘の教育実習は無事に終わるのか?

最初は軽い話でいくのかな?と思っていたのですが、コメディ要素はありつつも、なかなか重く深刻な話で、大丈夫かな?と感じました。
ただ、亘自身の人間性なのか、事態が良い方向に進みだして大団円(?)となったときには、ホッとしました。
まあ、神さんの記憶喪失が気になるところではありますが、多分、シリーズ化されれば、そこも少しずつ分かってくるのではないかと思います。
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『インスタント・ジャーニー』田丸雅智

2017-02-14 19:28:42 | 読書感想
旅をテーマにしたショートショート集です。

三津の港の一角にある種々雑多な人々が集まる「ポートピア」
北欧にある特別製の生地「生地屋のオーロラ」
青い特殊なステンドグラス「シャルトルの蝶」
海と空の境が消える南の島でのダイビング「BlueBlend」
菫草の異常に長い根をたどっていくと、着いた屋敷には老人とその世話人がいた「花屋敷」
など、とても楽しめる作品がたくさんあります。

中でも最後の「セーヌの恋人」は、切なさと寂寞感とでも言うのでしょうか?功成り遂げても満たされない何かを感じました。
美しさと重さが同居する、素晴らしい作品だと思います。
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『終幕のゆくえ』眉村卓

2017-02-13 19:32:19 | 読書感想
いわゆる高齢者と呼ばれる年齢の人々が主な主人公の短編集です。

小田中真悟は見知らぬ人物からカードを渡され、きょうから一年間、三〇秒のシシフンジンを一回に限り使えると言われた「三〇秒間のシシフンジン」
腹具合が悪くなった卓二が降りた駅で体験した、宮澤賢治の「月夜のでんしんばしら」を思わせる出来事と、その後の奇妙な世界「真昼の送電塔」
病院で薬をもらった後、体臭的名店街で暇をつぶしていた杉岡は、若い女性に腕時計みたいなものを渡された「嫌われ度メーター」
などが、特に面白く感じました。

あとがきで眉村さんは諦めが悪いと仰っていましたが、ほとんどの作品で諦念が見え隠れし、寂しく感じていました。
どうかこれからも、諦めずに書き続けてください。
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『どこかでベートーヴェン』中山七里

2017-02-12 19:34:52 | 読書感想
ショパン・コンクールの後、パキスタン大統領がテレビを通して岬洋介にメッセージを送った。
それを、岬の高校時代の友人・鷹村亮も見ており、高校時代に起きた殺人事件を思い出すこととなった。

鷹村は、岐阜県中央部、所謂中濃地区の山を切り拓いて造られた県立加茂北高校の音楽科に通っていた。
その二年生の時に、岬が転校してきたのだった。

彼の才能に憧れるもの、嫉妬するもの、クラスメイトの反応は様々だったが、大体において好意的なものが多かった。
豪雨による土砂崩れをいち早く察知し、ふもとに助けを呼びに行った岬が、殺人事件の容疑者になるまでは。

余談ですが、難聴になるまでの岬も、決して才能に恵まれた天才ということばかりではなく、無理解な父親との確執もあったのですね。

それにしても、クラスの中でほとんど四面楚歌だった岬が、あそこまで冷静に事件を解き明かしたのも素晴らしいのですが、あの状況で、岬を信じ守ろうとした鷹村も、隠していたことがあったとはいえ、尊敬に値する人物だと思いました。

また、ラストでは、思わずニヤリとさせられました。
『もう一度ベートーヴェン』(仮)も、楽しみにしています。
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