先日、散歩の途中、家の近くの喫茶店に入りボンヤリしていると、美しいバックグラウンドミュージックが流れてきた。
ミュージカル 「キャッツ」 の中で歌われた 「メモリー」 である。
‘初めて会ったその日から、恋の花咲く’ 人もいるようだが、わたしは初めて聴いたその時から、この曲が好きになった。
十年の余も前のこと。 テレビでソプラノ歌手が歌っていたのだ。
(キャッツの中の曲か・・・、なんてきれいなメロディなんだろう)
一目惚れならぬ、‘一耳惚れ’ であった。
https://www.youtube.com/watch?v=8UNumhhRM58
その後わたしは、キャッツの舞台を実際に観たくて、かつて五反田にあったキャッツ・シアターの劇団四季の公演に行った。
冒頭、舞台を中心に放射状に伸びた客席通路を、後方から舞台に向かって、何か声を発しながら小走りに走り抜ける猫たち(猫の衣装とメイクの演者たち)に驚き、舞台での彼らのキビキビとした踊りと歌、演技に圧倒され続け、やがて流れてきたこのメモリー。
それを聞いてわたしは、思わず目頭が熱くなった。
正直なところ、その時、このミュージカルの筋や主張はよく理解できなかったが、この歌の美しさは、素直にわたしの胸にしみたのである。
美しい曲は言葉を超え、それだけで人を感動させる力があるのだと思う。
わたしにとって ‘一耳惚れ’ の経験は、このメモリーだけではない。
サラサーテのツィゴウネルワイゼン、ドビュッシーの小組曲、ラベルの亡き王女のためのパヴァーヌなど、ちょっと考えただけでもいくつか思い浮かぶ。
でも、それらの一耳惚れ群の中には、このメモリーのようにたまたま聞く機会がなければ、死ぬまで忘却の淵に沈んだままになる曲もあるのではないかとも思う。
そう考えると少しさみしい気もするが、それも出会いと別れの一つの形なのであろう。 人との出会いと別れ、好意を寄せた人との出会いと別れのように・・・。
2015.11.15