文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
執筆依頼、献本等歓迎。

書評:軍艦島30号棟 夢幻泡影~1972+2014~

2014-08-31 11:39:55 | 書評:その他
軍艦島30号棟 夢幻泡影~1972+2014~
クリエーター情報なし
大和書房


 長崎市の沖合19キロに浮かぶ端島

 まるで軍艦のように見えることから、通称「軍艦島」と呼ばれた島に

 今は、廃墟となった鉄筋コンクリートの集合住宅が立ち並ぶ

 ここはかって石炭の島だった

 海底炭鉱を掘るためだけに生まれた、かりそめの街

 最盛期には東京以上の人口密度を誇り

 東西約160メートル、南北の約480メートルの細長い島の中に

 ひとつの完結した空間が存在していたのだ

 住宅、学校、店舗などは言うに及ばず

 パチンコ屋、雀莊、映画館などの娯楽施設

 更には寺院までも

 それは、時代の中の特異点

 人が食物なしでは生きていけないように

 国家もエネルギーなしでは存続できない

 かって黒いダイヤと呼ばれた石炭は

 エネルギーの主役として日本を支えて来たのである

 現在と40年前の写真を比べれば

 今は荒れ放題のこの島にも

 かっては人の暮らしというものがあったことが分かる

 それは、特に珍しいというものではなく

 日本のどこにでもあった風景だ

 ここは日本が近代化を押し進めていた時代の夢の跡

 もの言わぬこの島は

 かっての時代の遺物としてただ存在するだけ

 しかしここに収められている多くの写真は

 雄弁にいろいろなことを語りかけてくる

 ☆☆☆☆☆

 ※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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書評:エピジェネティクス  新しい生命像をえがく

2014-08-31 11:37:04 | 書評:学術教養(科学・工学)
エピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書)
クリエーター情報なし
岩波書店


 本書のタイトルとなっている「エピジェネティクス」とは、耳慣れない言葉だが、生命現象を理解するためには欠かせない概念のようだ。これは、「染色体における塩基配列をともなわない変化」のことで、もっと専門的に言うと、「ヒストンの修復とDNAメチル化による遺伝子発現制御」のことであるという。

 専門外の私には、このように言われてもさっぱりなのだが、例えば、胎児期の環境が、後の健康に影響を与えたり、一度何かに分化した細胞が、分裂を繰り返しても同じ種類の細胞だったり、学習・記憶した内容がずっと残っていたりといった具合に、遺伝でもなく、DNAの変化でもなく、細胞レベルで記録されているものがあるということらしい。

 一例をあげれば、ライガーとタイゴンは、ライオンとトラを両親として、どちらが父親になるか母親になるかの違いだけなのだから、本来同じゲノムDNAを持っているはずだが、姿形が大きく異なっている。これは、生殖細胞ができる際に、精子や卵子に父親や母親独特の情報が上書きされるゲノム刷り込みによるものと思われている。このゲノム刷り込みは、エピジェネティクスの存在を決定的に示しているという。

 また、発ガン性作用にも、遺伝的なものだけでなく、エピジェネティックな変化が関係しているようだ。遺伝子の異常は、薬剤では治療できないが、エピジェネティクスな異常は制御可能なので、薬剤の開発に希望を持たせる。その他、生活習慣病と、出生時の低体重との有意な相関があり、これもエピジェネティックなものだという。

 遺伝子や分子生物学などに関する専門用語のオンパレードであり、これらの方面の知識がないとかなり読みにくい。しかし、あまりに専門的なところは飛ばして、拾い読みだけでもしていけば、この興味深いテーマの一端くらいは掴むことができるだろう。ただ、この方面を目指す人は、頑張って読見通して欲しいものだ。

 最後に、生命科学における思考法というものが掲載されていたので紹介しておこう。以下の5項目がそうだ。

①確実なデータにもとづいて考える
②単純に考える
③一つづつ考える
④できるだけ厳しく考える
⑤できるだけ甘く考える

 どうだろう。生命科学だけでなく、他の科学でも可能ではないか。それだけではない、社会科学、人文科学やビジネスの場でもあらゆる場面で使えそうだ。本書の内容が難しくてよく理解できなかった人は、この考え方だけは頭にインプットしておくと良いだろう。

☆☆☆☆

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