・神取道宏
本書はタイトルの通り、ミクロ経済学の教科書である。対象は大学2回生程度であるというが、学部の中・上級から大学院の初級レベルまでをカバーしているという。
現代の経済学は、数学モデルをつくって、本来は定性的なことをいかにも定量的であるかのような錯覚を持たせて説明するというのが大きな特徴であり、本書にも、数式を使った説明があふれている。しかし、経済学的な概念はさておき、使われている数学はそう高度なものではなく、高校生でも理系に属している生徒なら理解できるレベルだろう。もっとも、経済学の慣例で、単なるラグランジュの未定乗数法の式をラグランジアンと記しているのは違和感がある。多分物理学を少しでも学んだ者なら、ラグランジアンというと別のものをイメージするのではないだろうか。
私たちの頃は文系に進んだ人間でも数ⅡB(普通高校の場合)までは履修していた。だから、経済学が文系だといってもそう違和感はなかったのかもしれない。しかし今はどうだろう。高校のときに数学をほとんど勉強しなかったのに、大学の経済学部に進学した者は、その内容に少し面食らうのではないかと思う。
最近は、ゲーム理論を経済学のツールとして使うことが流行しているようだ。本書にもゲーム理論に関する部分に多くのページが割かれている。ゲーム理論そのものは大昔からあり、私が学生のころは、難しい数式がたくさん並んだ専門書が売られていたものだが、経済学の教科書にゲーム理論に関する話題が載っていた覚えはない。しかし、今ではミクロ経済学にはかなり重要なツールらしい。
経済学を学ぶ目的は、経済学者に騙されないためと言ったのは、異端の女性経済学者であるジョーン・ロビンソンだが、私たちも本書に書かれていることくらいは知っておいたうえで、彼らの言論をうっかり信じないように気を付けたいものである。
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※初出は、
「風竜胆の書評」です。