本書は、人類化石の古代DNAを解析することによりいかに現生人類が地球に広がってきたかを示したものである。現生人類とはホモ・サピエンスのことだ。人類とはホモ属のことである。かってはいろいろなホモ属が存在していた。しかし今では、ホモ属はサピエンス種一つしか残っていない。考えてみればこれは不思議なことだ。なぜホモ属には1種類しか存在しないのか。もしかしたらどこかにサピエンス種以外の人類が生き残っているかもしれない。
ちなみにホモ・サピエンスというのは18世紀の生物学者であるカール・フォン・リンネによる命名法でホモが属名でサピエンスが種名だという。言葉の意味としては「賢い人」になるらしい。
人類の化石からもDNAが抽出できるというのは驚きだが、これにはDNAを増幅するPCR法が重要な役割を果たしている。そう新形コロナで有名になったあのPCR法である。この方法は、微量なDNAを増幅するもので、古代DNA研究という新たな学問分野を生み出すことになったという。
ホモ・サピエンスはネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルタレンシス)と交雑していたというのは割と知られているが、本書ではそれに加えてデニソワ人との交雑を取り上げている。デニソワ人とは、シベリア西部のアルタイ地方にある洞窟で。この洞窟少なくともはホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、デニソワ人と3種の人類が利用していたという。デニソワ人というのはあまりなじみがないかもしれないが、2010年に発見された指の骨と臼歯のDNAだけで新種とされた最初の人類だそうだ。
これらのDNAを解析することにより人類がどう分布を広げていったかシナリオが書けるとうのは極めて興味深い。
「我々はどこから来たのか、我々は何者か。我々はどこに行くのか。」は有名なポール・ゴーギャンの絵のタイトルであり、本書の終章のタイトルにもなっている。果たして進化人類学はこの疑問に答えてくれるのであろうか。
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