曇、22度、84%
座敷にお仏壇が出されたのは父が亡くなってからのことです。もう50年近く、お仏壇は座敷にありました。主人も息子も座敷を仏間だと思っていたと思います。父の生前は母はお仏壇の掃除もしませんでした。お盆、春秋のお彼岸、年の瀬、お仏壇の掃除をするのは父でした。滅多に開けられることのないお仏壇の扉が開きます。子供の私は掃除をする父の側でその様子を見ていました。
座敷の床の間の横、お仏壇のなくなった空間は何もないのにお仏壇の気配を感じます。長年、私の意識の底にそこにあるものとして認識されているからでしょう。白い漆喰の壁が清々しくも寂しくも見えます。その壁に絵を掛けました。正確にはリトグラフです。三岸節子の「花」というタイトルのついたリトグラフです。
座敷は高い天井ですが、雨戸を開けると縁側から入る日差しで暗い部屋ではありません。書のお軸も考えましたが、色のある絵を選びました。絵を掛けながら、お仏壇がここに置かれる以前は何が置かれていたのか思い出します。よく覚えていませんが、一時期、居間でテレビを見るのは良くないと母が言い出し、ここにテレビがあったことがありました。
絵を掛けると、仏間が昔の座敷に戻りました。せめてもの父母、祖父母への私からの手向けです。