『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』
監督:豊島圭介
ナレーション:東出昌大
109シネマズ箕面にて。
三島由紀夫に関する私の知識はとても浅い。
知っているのは1970(昭和45)年11月25日の三島事件のことぐらい。
「天皇万歳!」と叫んで割腹自殺したという事実が頭に残り、
天皇大好きな右翼作家と決めつけていました。数年前までは。
職場で「ご自由にお持ちください」と書かれた箱の中にあった『美徳のよろめき』。
「観なきゃ、読まなきゃ、文句も言えない」というのが私の信条ですから、
読まず嫌いもどうかと思って読んでみて度肝を抜かれる。
なんと美しい日本語なのでしょう。私のイメージが変わる。
その後観た『美しい星』(2016)。
三島が原作となった本を書いたのは50年以上前だということにまた驚く。
いやはや凄い人だと思いました。
それでもまだ本作を観るまでは「右のひと」のイメージ強く。
その変人ぶりを見るつもりで劇場へ足を運んだのに、
三島由紀夫という人に魅せられてしまった。
1969(昭和44)年5月13日。その年の初め、東大安田講堂事件が起きました。
これは、全学共闘会議、略して全共闘を名乗る新左翼の学生たちが、
授業料の値上げ反対や大学の民主化を掲げ、安田講堂を占拠した事件。
全共闘が相反する主張を持つ三島由紀夫を招き、
三島一人を全共闘の学生千人が迎え撃つ形で討論することに。
そのときすでに大作家となっていた三島をやり込めてやれ。その場で切腹させてやる。
そんな気持ちで駒場キャンパス900番教室に集まった学生たちのもとへ単身乗り込んだ三島。
血気盛んな学生たち相手だから、何が起こるかわからない。流血騒ぎになるかも。
周囲に心配されて始まった討論は意外にも和やか。
討論会のポスターには近代ゴリラと揶揄された三島の似顔絵と
飼育料100円(つまり参加料のカンパ)というナメた文言があるにもかかわらず、
それを笑い飛ばす余裕が彼にはあります。
余裕があると言っても、学生たちのことを見下しているわけではない。
次々と繰り出される彼らの意見を真剣に聴き、
ユーモアを交えながらも真摯に答え応じる。
なんだかんだで学生たちも三島のことが好きだったにちがいありません。
右翼作家だと思っていたけれど、彼の思想は決して右ではない。
言葉の持つ力を信じ、言葉で社会は変えられると信じている。
このドキュメンタリー作品を観て、彼のことが好きでたまらなくなりました。
インタビューに応じているのは、元全共闘の学生、および三島が立ち上げた楯の会の学生、
哲学的な話も三島のように解説してくれる人がいたならば。
あの自決がいまさらながら残念でなりません。
そして今、大阪の劇場がすべて休業中でこの作品を観られないことも残念至極。