『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』(原題:The Apprentice)
監督:アリ・アッバシ
出演:セバスチャン・スタン,ジェレミー・ストロング,マーティン・ドノヴァン,マリア・バカローヴァ,
キャサリン・マクナリー,チャーリー・キャリック,マーク・レンドール,ベン・サリヴァン他
昨年12月中旬にシネマート心斎橋改め新装開業したキノシネマ心斎橋へ、2度目の訪問。
ドナルド・トランプ、大嫌いです。
嫌いだからこそ、トランプの弁護団が公開を阻止しようとしたという本作が気になります。
アメリカでの配給に苦戦しながらもなんとか公開にこぎつけ、トランプは怒りあらわ。
大統領選に影響が及ぶことも懸念されたようですが、それでも当選しちゃうんですもねぇ。
脚本を書いたのは、トランプを長年に渡って取材した記者ガブリエル・シャーマン。
脚本ができあがったからといって、政府を敵に回すことになる作品だもの、及び腰になる人もいて当然。
『新聞記者』(2019)を観たときに追記したようなことが日本でもありました。
本作の脚本はクリント・イーストウッドやポール・トーマス・アンダーソンなど、
名だたる監督のもとへも送られたそうですが、ビジネス上のリスクありとして皆お断りになったそうです。
で、白羽の矢が立ったのかどうか知らんけど、受けて立ったのはアリ・アッバシ監督。
彼の『マザーズ』(2016)は妊婦には絶対お薦めできないホラーだったし、
『ボーダー 二つの世界』(2018)は不気味なこと極まりないスリラーでした。
本作はホラーでもスリラーでもないはずなのに、話そのものがかなり怖い。
ちなみに“アプレンティス”はトランプが司会を務めたリアリティ番組のタイトルです。
不動産業を営むトランプ家に次男として生まれたドナルド。
長男フレッド・ジュニアは父親フレッドの仕事を継ぐ気がなく、TWAのパイロットの職に就いた。
パイロットという職業を見下す父親は、一族の恥さらしだとフレッド・ジュニアを非難する。
一方のドナルドは父親の会社の副社長の肩書きを持つものの、
任されている仕事といえば自社が所有するアパートメントを回り、家賃の督促をするだけ。
あるとき、ドナルドの父親が政府から訴えられる。
黒人の入居者を認めない等、不正を働いたというもので、父親は窮地に追い込まれる。
そんな折ではあるが、一応は父親の名は通っているから、名士が集うクラブに入店を許可されたドナルド。
最年少のメンバーとなったことに鼻高々で入店。
すると、彼を見つけた著名な弁護士ロイ・コーンが声をかけてくる。
ドナルドのことを気に入ったと見えて、縋りつかれるとこの案件を引き受けてくれる。
ロイの教えは、「攻撃、攻撃、攻撃」「絶対に非を認めるな」「常に勝利を主張せよ」。
父親に楯突けない気弱な青年だったトランプは教えを忠実に守り、やがて大成功を収めるのだが……。
3度結婚している彼の最初の奥さんで、チェコ出身のモデル、イヴァナとの馴れ初めも出てきます。
彼女に豊胸手術を受けさせておいて、作り物の胸にゾッとすると言い放ち、浮気を繰り返す。
お金への執着は最初からあったけれど、ちょっと見栄っ張りのボンボンぐらいのイメージだったのが、
一旦富を手にするや、それを増やすことに飽くなき執念を燃やしつづけ、
落ちぶれた兄や言うことを聞いてくれようとしない父親はじゃまでしかない。
あんなに面倒を見てくれたロイのことも、利用し尽くした後はポイっと。
ドナルド役のセバスチャン・スタンとロイ役のジェレミー・ストロングの演技が凄いんです。
特に後者が凄すぎて。この人、『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』(2013)で犯人役を演じた人なんですね。
自身が太って行くことや髪の毛が薄くなって行くことも気にしていて、
脂肪除去と頭皮除去の手術のシーンがエグすぎて見たくなかった。
映画ですからね、かなり脚色の部分はあるでしょうし、丸ごと信じたりはしません。
真実何割かだったとしても、やっぱり好きにはなれないよなぁ。
アメリカでは本作の宣伝をおおっぴらずにすることができなかったのは当然だけど、
それでも上映禁止としなかったのは、懐の深さを見せるほうが得だと判断したからでしょうかね。