夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

映画『クリーピー 偽りの隣人』と本『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』

2016年08月13日 | 映画(番外編:映画と読み物)
『消された一家 北九州・連続監禁殺人事件』という本を読みました。
2002(平成14)年に発覚した北九州監禁殺人事件。
日本では類を見ないほど凄惨な事件なのにそれほど認知度が高くないのは、
あまりに残虐すぎて報道が規制されたということと、
被害者たちが拷問しあったり殺しに手を貸したりしたという経緯から、
その遺族がメディアに対して消極的だったことがあると言われています。

私もなんとなく聞いたことがある程度でほとんど知らなかったのですが、
『八つ墓村』の基となった津山三十人殺しについて読もうと『丑三つの村』を注文したら、
同様のおぞましい事件の本として『消された一家』が検索にヒット。
読了後のレビューは“ブクログ”にUPしました。こちら。

読んでいる途中で、『クリーピー 偽りの隣人』に思い至りました。
映画版が駄目駄目だったので、怒りに駆られて(笑)原作を読んだのが2週間前。
そのレビューも同じく“ブクログ”にUPしています。それはこちら。

『クリーピー』の原作と映画版は、登場人物の名前が同じだというだけで似て非なるものでした。
どちらも不愉快だったことには変わりはないけれど、
それでも原作のほうがいくぶん筋は通っていました。
なぜこの原作を映画化したらあんな作品になるのか理解に苦しみましたが、
『消された一家』を読み、黒沢清監督の頭の中にはこの事件があったのだと思わずにはいられません。

映画『クリーピー』の冒頭、映画の本筋に必要とは思えなかったシーン。
動機などは理解不能な、サイコパスと呼ぶしかない殺人鬼が世の中にはいる、
ただそれだけを言いたかったシーンに思われて「なんじゃこりゃ」でしたが、
黒沢監督が北九州監禁殺人事件の犯人、松永太を想定していたとしたら。

殺人に天才も何もないでしょうけれど、天才的な殺人鬼、松永太。
ターゲットに絞った家族に近づき、心に入り込み、ひとりずつ消してゆく。
自分の手を汚すことなく人をあやめ、解体し、捨て去る。
映画『クリーピー』で犯人を演じた香川照之と監禁部屋が気持ち悪くて仕方なかったのですが、
『消された一家』の松永太の恐ろしさはその比ではありません。
10代の少女を長らく残して殺人の後片付けをさせていたところも実際の事件と同じです。

まともだった人びとが思考を停止しなければ生きていけない状態。
映画ではヤク漬けにしていましたが、実際の拷問はそれ以上に残忍であろう通電。
その苦しさから逃れるために、家族同士で蹴落とし合おうとする。
最下位にランクされた者が廃人となっていく様子があまりにつらく、
ヤジウマ的に読みはじめたことを後悔しました。想像を絶します。

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『ハイ・ライズ』

2016年08月11日 | 映画(は行)
『ハイ・ライズ』(原題:High-Rise)
監督:ベン・ウィートリー
出演:トム・ヒドルストン,ジェレミー・アイアンズ,シエナ・ミラー,ルーク・エヴァンス,
   エリザベス・モス,ジェームズ・ピュアフォイ,キーリー・ホーズ,ステイシー・マーティン他

シネ・リーブル梅田でハシゴの本命だった2本目。
結果的には1本目に観た『あなた、その川を渡らないで』のほうが○。
この2本目は想像していたものとかなり違いました。

原作はイギリス人作家J・G・バラードの1975年に出版されたSF小説。
同作家による1973年の『クラッシュ』と1974年の『コンクリート・アイランド』と併せて
テクノロジー三部作と呼ばれ、
『クラッシュ』は1996年にデヴィッド・クローネンバーグ監督によって映画化されています。
それを知っていればエログロありの変態映画を想像できたのですが、
知らずに観に行ってしまったためにこんな間違いが起こりました(笑)。
まぁ、決して嫌いではないんですけれども。

舞台は出版当時の1970年代から見た近未来と思われます。

ロンドン郊外に建設された40階建ての高級タワーマンション。
人間の手をイメージしてデザインされたそのマンションは、
ちょうど腕をまっすぐにして肘を突き、手のひらを上に向けた広げたときのような形。
中層階にスーパーマーケットやジム、スパなどが完備され、
入居者には何不自由ない生活が約束されたまさに理想郷(ユートピア)。

ここへ入居したばかりの若手医師ラングは、上階の美女からパーティに招かれる。
このマンションではド派手なパーティが夜な夜な開かれているらしい。
酒と女に囲まれて新生活を謳歌するラング。

ある日、ラングは最上階のペントハウスの住人から呼び出される。
その住人はマンションの設計者ロイヤルで、
どうやらラングの経歴についてすでに熟知しているらしい。
事情がわからないままロイヤル主催のパーティにも出席するが、
ほかの出席者は上から目線でラングを小馬鹿にした態度。

そんな折り、低層階に住むワイルダーと知り合ったラングは、意外な事実を聞かされる。
それはこのマンションが階級による棲み分けを設計の基礎としているという話だった。
低層階の住人たちの不満は日々高まっているらしく……。

ラング役は“マイティ・ソー”シリーズの悪役ロキがハマっていたトム・ヒドルストン
マンションの未来を握る脳外科医として入居を認められたようですが、
本人はそのことに気づいておらず、何がどうなっているのやらはかりかねています。
公開前のマナームービーにも登場した全裸シーンがイケていて、完璧な体つき。
ロイヤル役はジェレミー・アイアンズで、久々に変人ぶりを発揮。
“ホビット”シリーズのバルド役だったルーク・エヴァンスがロイヤルに立ち向かうワイルダー。
美女シャーロットを演じるシエナ・ミラーは乳も隠さぬ勢い(笑)。

面白く観はじめたのですが、「変人セレブだらけのタワーマンションの話」を想定していたものだから、
頻繁に起こる停電に住人がいらだつころに睡魔に襲われ、
はっきり覚醒したときにはすでに住人の反乱のまっただなか。
寝てもあんまり影響はなかったと思われますが。(^^;

階層がテーマの社会派ドラマかと思いきやそんなこともなさそうで、
こんな世界観もあるよという程度で観れば楽しめます。
エログロというほどではないですが、動物好きには受け入れがたいシーンも。

監督が誰かも知らずに予告編に釣られて観た作品でした。
『サイトシアーズ 殺人者のための英国観光ガイド』(2012)のベン・ウィートリー監督だと後から知り、
あの作品が不愉快きわまりなかった私は、やっぱりこれもイマイチでした。
トム・ヒドルストンを観るだけならサイコーです。

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『あなた、その川を渡らないで』

2016年08月09日 | 映画(あ行)
『あなた、その川を渡らないで』(英題:My Love, Don't Cross That River)
監督:チン・モヨン

ものすごく暑い日が続く先週今週。
こんな暑さのなか、梅田スカイビルまで歩くには気合いが必要。
なんとか自分に活を入れながら炎天下、シネ・リーブル梅田へ。

2本ハシゴのつもりで出かけ、本命は2本目。
その前に1本観るにはこれしか時間が合わなかったのでこれにしたのですが、
涙をこらえずにはいられない、心に染みわたる良作でした。

韓国の自然に囲まれた小さな村に暮らす老いた夫婦。
息子や娘6人はそれぞれ独り立ちし、ここで暮らしているのは老夫婦のみ。
あるテレビ番組でこの夫婦が紹介されているのを目にしたチン・モヨン監督が、
あまりにも凄い夫婦だと驚き、密着撮影を申し込みます。
15カ月間にわたって夫婦の様子を追いつづけたドキュメンタリーです。

夫は98歳、妻は89歳。寄り添って76年。
出会ったのは妻がまだ14歳のとき。
夫は妻を傷つけたくないからと、結婚後も手を出しません。
枕を並べて眠るとき、夫はずっと妻の頭や頬を優しく撫でるだけだったそうです。
「17歳になったとき、私のほうから抱きついた」と言う妻のなんと可愛らしいこと。
70年以上経っても、眠るときに妻の頬を撫でていなければ落ち着かない夫。

毎日きちんと民族衣装に身を包む。
夫はどれが夏服か冬服かもわからないから、妻まかせ。
用意された服をふたりで着て、髪の毛も整えます。
この年齢が信じられないほどふたりともしゃんとしていてお洒落。
揃いの民族衣装がまるでペアルックのよう。

表の掃除も雪かきもふたり一緒。
せっかく掃き集めた枯葉を夫は妻にふざけて投げつけます。
「なんてことするのよ」と言いながら笑って投げ返す妻。
雪かきのときにはもちろん雪合戦が始まります。お互いに似せた雪だるまをつくり。
妻が川に水仕事に出れば、またまた夫がじゃまをしにやってきて、今度は水の掛け合いっこ。

妻のつくる食事に夫は一度たりとも文句を言ったことがありません。
まずければ残すし、おいしければたいらげる。
でも、どちらのときも必ず、食べ終われば「ありがとう」と言い添えます。

12人の子どもを産んだけれど、病で半数が亡くなりました。
老いて死期も遠くないと悟っている夫婦は、
幼くして亡くなった子どもたちに会ったときに渡してやりたいと、
子ども用のパジャマを6着買います。
先に天国へ行ったほうが渡そうねと約束して。

自分たちの介護の話で子どもたちが言い争うのを聞いて胸を痛め、
目に涙をいっぱい溜める夫婦の表情が切ない。
巣立った子どもたちに夫婦は頼るつもりなく、
ただ夫婦で少しでも長く一緒にいられることだけを望んでいます。

大好きだった人を失うとき。
もう戻らない夫に別れを告げる妻の切々とした思い。
温かさと切なさに満ちみちた作品でした。

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『ターザン:REBORN』

2016年08月07日 | 映画(た行)
『ターザン:REBORN』(原題:The Legend of Tarzan)
監督:デヴィッド・イェーツ
出演:アレキサンダー・スカルスガルド,サミュエル・L・ジャクソン,マーゴット・ロビー,
   ジャイモン・フンスー,クリストフ・ヴァルツ,ジム・ブロードベント他

前述の『シン・ゴジラ』とハシゴ。
TOHOシネマズ梅田の本館から別館へ移動して。

監督は“ハリー・ポッター”シリーズのイギリス人監督デヴィッド・イェーツ。
主演はスウェーデン人のアレキサンダー・スカルスガルド
ヒロインのマーゴット・ロビーはオーストラリア出身だし、
このところ腹黒い人にしか見えないクリストフ・ヴァルツはオーストリア出身。
首長役のジャイモン・フンスーはベナン出身ですから、なんとも国際色豊かなハリウッド作品。

19世紀末のイギリス・ロンドン。
諸般の事情からジャングルゴリラに育てられた貴族の息子ジョン・クレイトンは、
美しい妻ジェーンとともに裕福な暮らしを送るが、傲らない誠実な男。

ある日、英国首相から呼びつけられたジョンは、
ベルギーの植民地であるコンゴを表敬訪問してほしいと言われ、即座に断る。
ところが、帰途につくジョンを追いかけてきたジョージ・ワシントン・ウィリアムズ博士が、
コンゴで不穏な動きがあると言う。
ベルギー国王がコンゴのダイヤモンドを狙い、
コンゴの現地住民を奴隷として働かせているらしい。

自分が生まれ育ったコンゴでそのようなことがおこなわれているならば許せない。
真偽のほどを確かめるため、ジョンは話を受ける。
やはりコンゴで育ったジェーンも同行すると言って聞かず、
結局ジョンとジェーン、ジョージがコンゴへ向かうことに。

すべてを仕切るのはベルギー国王の側近レオン・ロム。
彼はジョンを憎む民族の首長ムボンガと交渉し、
ジョンを引き渡す代わりにダイヤモンド採掘の許可を求める。
そうとは知らずにコンゴ入りしたジョンたちは……。

アレキサンダー・スカルスガルドがイケメンなのがイイ。
個性派俳優ステラン・スカルスガルドの息子がこんなに美形で、
脱いでも美しいなんて、これまで誰が想像していたでしょう。
彼を最初に見たころ、へ~、親父と似てへんなぁ、そのうちあんなんになるんかなぁ、
などと思ったものですが、今のところその心配は不要。
スーツも裸も似合うんだから、言うことなし。
ジョージ役のサミュエル・L・ジャクソンとのコンビも笑えます。

草原を疾走する動物の群れが美しい。
勧善懲悪のこれほどわかりやすい映画がありましょか。
イケメンと美女とスリルとハッピーエンドがあればそれで良し。

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『シン・ゴジラ』

2016年08月06日 | 映画(さ行)
『シン・ゴジラ』
総監督:庵野秀明
監督:樋口真嗣
出演:長谷川博己,竹野内豊,石原さとみ,高良健吾,松尾諭,
   市川実日子,余貴美子,國村隼,平泉成,柄本明,大杉漣他

TOHOシネマズ梅田にて。
さして“ゴジラ”に思い入れのない私ですが、一通りは観ています。
最近ではオリジナルの『ゴジラ』(1954)を60周年記念デジタルリマスター版で観て、
その直後に公開された『GODZILLA ゴジラ』(2014)ももちろん観ました。

誰でも知っているゴジラのことですが、一応あらすじを。

東京湾アクアトンネルが突如として崩落する大事故が発生。
総理以下、各閣僚が出席する緊急会議が開かれる。
海底火山の活動が原因との意見が大半を占めるなか、
内閣官房副長官・矢口(長谷川博己)は巨大生物の可能性を指摘するが、一笑に付され、
内閣総理大臣補佐官・赤坂(竹野内豊)から態度をたしなめられる。

その直後、矢口が推測したとおりの巨大生物が海上に現れる。
政府関係者は愕然としたものの、上陸することはないと断言。
ところがその生物は海上を突き進んだのちに鎌倉に上陸。
家屋は見事になぎ倒され、人々は逃げまどう。

政府は緊急対策本部を設置するも、対応が後手後手に回る。
そんな折り、米国国務省の女性エージェント・パタースン(石原さとみ)が来日。
彼女はこの事態を予測していた人物についての情報を持っていた。

矢口とパタースンは、“ゴジラ”と呼ばれる巨大生物について、
情報を共有することでとりあえず合意。
日米のみならず世界各国が事態の推移に強い関心を示すなか、
ゴジラによる被害を食い止めようと奔走する矢口だったが……。

評判がいいようですねぇ。
そこまでよかったかと聞かれたら私は微妙ですが、普通に楽しめました。
世界的に有名なゴジラを登場させておきながら、
誰もゴジラを知らないところからスタートしているのも○。
ゴジラファンもこれが初ゴジラの人も楽しめると思います。

謎の巨大生物“ゴジラ”への対策を練る頭脳チームとして集められたのは、
出世などまったく頭にないはぐれ者ばかり。
異端児の集まりとされる面々は、役者としても面白い顔ぶれで、
特に、塚本晋也犬童一心緒方明などという監督としても一流の人たちが
こんなぶれない変人役で登場してくれるのは嬉しいかぎり。
野間口徹黒田大輔がシュルッと出ているのも個人的にワオッ。

レトロな町の風景が昔のゴジラをも思い出させ、
SFやファンタジーに走った映像でないところも好感が持てます。
上陸したばかりのゴジラの姿には、CGが発達していなかった時代のゴジラへの敬意も感じられました。

野村萬斎モーションキャプチャーだと聞くと、
ぬおっと浮かぶゴジラの姿が野村萬斎の立ち姿に見えてくる不思議。
すごい人がいっぱい出演しているのに、
メインの長谷川博己,竹野内豊,石原さとみ、そして野村萬斎以外は、
その他大勢としてエンドロールで五十音順に掲載というところもなんだか潔い。

楽しかったですけれど、樋口真嗣監督に笑いのセンスはないと思うんだなぁ。
伸びたラーメンをぼやく平泉成とか「戦後は続くよどこまでも」とか、
笑わせたかったとおぼしきシーンは完璧にスベっています。(^^;

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