郷里に、花畑牧場が出来たのは............
アタシ達が新婚の頃で、まだ帯広に住んでいた....。
そんなある晩..............
知り合いの店で呑んでいたら..........
ヨロヨロと、1人の中年男性が入ってきて.....
隣の席にストンと座った.................
ガックリと肩を落とし、ずいぶんと酔っている.......
雰囲気から、土地の者ではないな~と察した........
でも、旅行中って楽しげな空気でもない..........
こんな時、つい気になって話しかけてしまう........
これは、酔ってる時のアタシの悪い癖(笑)........
聞けば......本州の方で、明日は娘の結婚式だと言う.......
娘さんが、この十勝の農家(酪農)に嫁ぐそうなのだ...........
【そりゃ大変っ、お父さん、もうホテルへ帰ったほうが良いよっ】
【そんなに呑んじゃ、明日の結婚式に出られませんよ.........】
と言ったら.......オイオイ泣きだしたっ................
どうやら.....農家へ嫁がせることに反対らしいのだ..........
わかる、その気持ちは痛いほどわかる、たぶんお父さんより.....
農家の嫁は大変だ、ましてや酪農は..............
農業とは無縁の父親には、娘が心配でやり切れなく......
プラス、「花嫁の父」の心境が相まって、泣き崩れていた.......
でも娘さんはシッカリと覚悟を決め、未来を描いて嫁ぐのだろう......
なんとなく、同じ年ごろの同性として、理解できた.......
たぶん、お父さんだって解ってるんだろうな、と感じた。
さぁ~それからが大変だった(笑)...............
お店のママさんや、居合わせた他のお客さんにも事情を説明して.....
店中総出で【お父さんを慰める会】が始まった..............
「だいじょうぶさぁ、今は近代化して仕事も楽になってるから」
「そうそう、もう昔みたいに大変じゃないよねぇ・・・」
「暮らしにも余裕があるしね~心配ないよ~」
「北海道は明るくて自由な気風だしねぇ・・・」
「家族みんな、大切にしてくれると思うよ~」
「娘さんもシッカリしてるようだし、すぐに馴染むべさ」
「ここは寒いけど、雪は少ないし・・・」
「これ芋ダンゴ、名物なんですよ~美味しいでしょう?」
「鮭なんて、自分で釣ってきて食べるの、タダなのよ」
もうみんな一生懸命に、必死で言葉をかける..............
必死のあまり、意味不明になってきてはいたが.............
お父さん、泣きやんできた......................
「そうだ、花畑牧場も出来たしねっ」
誰かがそう言ったら、お父さんがやっと笑った!
【うんうん、そうですね、花畑牧場・・・・】
そうそう花畑牧場♪花畑牧場♪......と連呼するアタシ達........
それからお父さんはグングンと元気を取り戻し...........
最後はみんなで、マラカス片手に歌の大合唱♪(笑)..........
親切なお客さんが、お父さんをホテルまで送り届け.........
その夜は、お開きとなりました..................。
「花畑牧場」って名前を見るたびに................
あの夜の「新婦の父」を思い出す......................
いまごろ娘さんは.........................
立派な「農家のかあちゃん」になって...............
泣きべそ父さんは........................
「じいちゃん」と、呼ばれてるんだろうな.......。