雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

見分けがつかない

2018-12-05 19:11:59 | 日々これ好日
        『 見分けがつかない 』

     近くの池の水鳥は カイツブリが主役だった
     子育てをし 二、三十羽が可愛い姿を見せていたが
     いつの間にか 親子の見分けがつかなくなってしまった
     ところが 最近になって その数が百羽を超えている
     よく見てみると 泳ぎ方からして ほとんどがカモらしい
     季節柄 渡って来たものだろうが 
     その中に カイツブリがいるのかどうか 見分けがつかない
     もしいないとすれば カイツブリはどこへ行ってしまったのだろう

                        ☆☆☆
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嬉しき心遣い

2018-12-05 08:23:25 | 麗しの枕草子物語
     麗しの枕草子物語 
               嬉しき心遣い

中宮さまからの再々のご命令にもかからず、私は相変わらず里に籠っておりました。
そんなある日のことです。長女(オサメ・中宮職の下女の長)が手紙を持ってきました。

「中宮さまより、宰相の君を通して、そっと賜ったお手紙です」
と、ここへ来てまで周囲に注意を払っているのですから、少々度が過ぎます。
「女房に代筆させての伝達ではないのだろう」と思いますと、急に胸がどきどきしてきて、急いで開けてみますと、紙には何も書いておらず、山吹の花をたった一つ包んでおられました。
それに、『いはで思ふぞ』とお書きになっておられる。
このところ、中宮さまからのお便りも絶えてしまい悲しく思っていましたが、それらを打ち払ってしまうような嬉しい便りでございました。

私を見守っていた長女は、
「中宮さまには、どんなにか、何かにつけてあなた様のことを思い出して口にされるそうでございます。
誰もが、『納得できないほど長い宿下がりだ』と思っております。どうして、参上なさらないのでしょうか」
と言った後で、
「さる所へ参る用事がございますので、その後でお伺い致します」と出掛けて行きました。

中宮さまがお贈り下さいました山吹の花は、今頃咲くものは『返り咲きの山吹』といわれるもので、私に帰参を求めて下さっている意味ですし、『いはで思ふぞ』は、「口には出さないがそなたのことを思っているよ」ということを古歌を借りて伝えて下さっているのです。
長女が帰ってくる前に御返事を書こうと思ったのですが、嬉しさのあまり舞い上がってしまっていたのでしょうか、その和歌が思い出せないのですよ。

「どうしたんでしょうね、まったく・・・。こんな有名な古歌を知らない人なんてあるかしら。ここのところまで出てきているのに、ほんとにどうしたのかしら」
などと、私がぶつぶつ言っているのを、そばに座っていた女の子が、
「『下行く水』と申すのですよ」
と言われて、そうそう、『心には下行く水のわきかへり 言はで思ふぞ言ふにまされる』という歌を思い出しました。
子供に教えられるなんて、全くどうかしています。

さて、それからしばらくして、私は出仕しました。
「どんな様子かしら」
などと気になり、ばつが悪いこともあって御几帳に半分隠れるようにして控えておりますと、
「あそこに隠れているのは、新参の者か」
などと、お笑いになって、
「嫌いな歌なんですが、今の気持ちに合っていると思ってね。そなたの顔を見ないので、少しの間だって気が休まらないのよ」
などと仰って、以前と少しも変わらないご様子で接してくれるのです。私もすっかり緊張が解けて、本歌を童女に教えられたことなどをお話し申し上げますと、たいそうお笑いになって、
「まあ、そういうこともあるでしょう。案外簡単なものを思い出せないなんてこともね」
など仰せられ、こんなお話をしてくださいました。

「なぞなぞ合わせの味方ではないのですが、なかなか達者だといわれている人が、『左の一番手は私が出題しましょう。そのつもりでいて下さいよ』と言うので、『まさか、つまらない問題は出すまい』と左の組の人は頼もしく思い、任せることにしましたが、自分たちが作る問題のこともあるので内容を確認しようとしましたが、『任せておきなさい。こう申し出るからには、変な問題は出しませんよ』と言う。
『なるほど」といったんは納得しましたが、試合の日が近付くにつれて不安になり、『問題が重なるといけないので、ちょっとだけ教えてください』と言いますと、『そんなに心配なら、もう私を当てにしないでください』と怒ってしまう。気がかりではありますが、達者との評判が高い人ですから、なんとかなだめて味方してもらうことにりました。

さて、試合の当日となりました。左の方、右の方の人たちが居並び、立会人も位置に付きました。彼の人は、いかにも期するところがありげに胸を張っていますし、全員が事情を知っているものですから、どんな文句が出てくるのか興味津々のようです。
立会人に促されると、『なぞ、なぞ』と、全く堂に入った様子で呼びかけます。味方も相手方も、さすがだと感心しながら次の言葉を待っていますと、『天に張り弓』と言ったんだそうです。

子供でも馬鹿にしそうな出題に、右の方の人たちは『これは面白くなった』と思い、左の方の人たちは『何を言い出すのだ』と白けきっています。初めから相手に勝たせるためのはかりごとだったのかと思う人もいる始末です。
答える人も、『弓張月』と答えて勝ったところで自慢にもならないものですから、『うーん、これは難しい』『これは困ったぞ』などと、困りきったような格好をしてみんなを笑わせています。さらに、『これは、全く分かりませんなあ』とさらに調子に乗っていいますと、出題した彼の人は、『勝負ありましたぞ、立会人。早くこちらに勝を』と勝ち点を付けさせました。
納得できないのは負けとされた人で、『それは納得できない。こんな謎を解けない者などいませんよ』と苦情を申し立てましたが、『分からない』と言ったからには負けとされてしまいました。

少納言とは少し違うけれど、誰でも知っているようなことでも、『分からない』ことになってしまうことはあるみたいね」
とお笑いになられる。
女房たちが数多いる中で、私が歌を忘れたのではなくて、知ったかぶりをしないようにしたのでしょうと、心遣いをして下さったのです。


(第百三十六段・殿などのおはしまさで後、より)
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