
バルネ・ウィランがなくなってから10年以上が経ちます。バルネが好きになったのは実は亡くなった後で、後期の一連の作品と逆に若い時のアルバムを後から聴いて、その才能を感じています。
ところがそのバルネとリアルタイムでなつかしいアルバムがあります。MPSから1968年に出た“AUTO JAZZ”というアルバムです。1967年度のモナコ・グランプリのドキュメンタリー・フイルムのためのサウンド・トラックです。凄いレースのエンジン音とバルネたちのフリーインプロの演奏が重なった素晴らしいアルバムです。このアルバムだけはリアル・タイムに出たときに聴いてそのカッコよさを良く覚えています。バルネ自体をそれほど、知らないので買いませんでしたが、そのずっと後にバルネを集めるようになって欲しい、再び聴きたいと思っていました。
上手い具合にCDに成ったものに中古屋さんで出会いました。
結婚記念日の日に記事にするには当日の曲の名前も悪いし、続けてこれ(悲劇への爆走)ではということで、入れ替えました。
当時は、フリー系の演奏など日常的でありましたから、いま聴きなおしても、全然重くはありません。この年のレースでイタリアのロレンツォ・バンディーニが悲劇的な事故死を起こすレースなのですが、そのことがドラマチックに音楽に反映していきます。このときに特に明確なフリージャズのアプローチがぴったりあっていて当時聴いた思い出が確り焼きついていました。
曲は5曲、悲劇に向けての章だてになています。ここでその楽章を紹介します。
1 バンディーニへの期待~アナウンス~ピットでの国家吹奏
2 スタート
3 特別席の大公
4 ヘアピン・カーブ
5 キャニオン・サウンドの悲劇
題名を見るだけでそこで起きた悲しさがつたわる気がします。
1曲目、レース音と人声から、ピアノのフリーな演奏、どんどんエンジン音とアナウンスの音量が増していくと悲劇を知らないレースが物悲しく始まるのです。
フランソワ・デュスクのピアノは硬質で、エディー・ゴードンのドラムスはフリーインプロですが、ベースのベブ・ゲリンのおとは柔らかく、今聴いても充分まとまった演奏です。
2曲目スタートのエンジン音からテンションが上がっていく演奏はこの年に亡くなったJ・コルトレーンのを思わせる演奏になります。ベースのB・ゲリンのアルコソロはさすがヨーロッパでこの時代でありながらその程度の高さに驚かされます。
3曲目はピアノのフランソワ・デュスクのソロからレースが長い時間続いているように音が持続します。バルネのテナーのソロからそろそろ悲劇の予感が演奏されます。
そして4楽章、ヘアピン・カーブ回りでのエンジン音は、やがて別な次元に切り離されるような、悲劇の場所が整って行きます。とめることの出来ないテナーのソロの後、エンジン音だけが物悲しく続きます。
ベースソロから始まる悲劇は、そこで起こった悲劇を確りドキュメントするように事故現場を捉え、続行するレース音と重なって物悲しげに始まります。まるでコルトレーンの“エクスプレッション”のように事故現場からその悲しみを昇華するようなテナーの鎮魂歌が続きます。
このアルバム勝手は持っていなかったものですが、当時の思い出とバルネが好きになったことで、欲しいと思っていたものです。
今回手にいてれ聴けば時代が40年近くたっているのにこの演奏は驚くほど新鮮で、またドキュメントとして現実を表現する実力が凄いアルバムです。
それこそ40年ぶりに聴きましたが、お薦めです。
Auto Jazz / Barney Wilen
Barney Wilen tenor saxophone
Francois Tusques piano,prepared piano,organ
Bwb Guerin bass
Eddy Gaumont drums