23
生実は考えていた。傷心のさやをどうしたものかと。一番いいのは、信頼できる人間が現れることだ。しかし、そうやすやすと現われることもない。ここは生実が一肌脱ぐ場面であるのは確かだ。さやは来週退院するという。そうなら、美千代に久美子を加えて退院を手伝うというのは、いいプランに思える。早速、美千代と久美子に電話で説明して、快諾を得た。
退院の日の病室は、まるでピクニックを楽しむ男女という風情で、会計の精算が出るまで、花が咲き乱れる五階屋上庭園を散策した。
さやと久美子は、生実の思惑通りの展開で、見つめあい手を握り合って、他人を寄せ付けない雰囲気になっていった。生実も知らず知らずの内に、美千代の腰に手を回していた。美千代はさりげなく身を預けてきた。
24
生実は久美子を問いただし事情を聞いた。そして信治とも会って、クルーザーで釣りを楽しむ間、冗談めかしたり真剣味を帯びさせたり時に脅したりしながら、徐々にお互いの隙間を埋めていった。これには数回のクルージングが必要だったが。
久美子の話では、信治は男らしい生実に畏敬の念を覚えているようだった。生実は姉夫婦が営む麻布のイタリア料理店で働かせようと思っている。本人がいいといえばの話しだが。ハンサムだし根は好青年なので、店で続いてくれればと願う。姉の店に女性客が今以上に増えるだろう。
さやの弟はボランティア団体の世話で近々渡米して手術を受ける予定になっている。
その手術の成功を祈って、生実のアパートにさや、久美子、信治、美千代、それに増美とテルマが集まってパーティを開いた。さやと久美子は、まるで双子のように配色がまったく同じ服装をしていた。白の男物のポロシャツ、カーキの短パンは さや、カーキのチノパンは久美子という具合。どちらもポロシャツのボタンをはめられないほどの胸の隆起がまぶしい。それを見た信治が
「姉も捨てたもんじゃないですね」と感嘆する。
「何言ってるんだい。姉さんは飛び切りの美人で、男どもをふらふらにしてるよ」と生実。
増美とテルマ、手を握り合って親密な二人は、ともにロングヘアーで色白、違うのは髪の毛の色と瞳の色で、増美は黒の髪に茶色の目、テルマはブロンドの髪にブルーの目。こちらもプロポーションは文句のつけようがない。白のTシャツにブルージーンズという何の変哲もないあっさりしたもの。
かいがいしく生実の手作りの料理――といってもピザにパスタ、豚肉の包み焼きなどだが――を手伝っている美千代は、胸が大きく開いた赤のワンピースに赤のハイヒールは、まるでバレリーナのようだ。
生実はというと、紺の上下に、シルバーのネクタイを締め、おまけにボタンもきっちりと留めてある。宴は騒々しさの中にも、思いやりや信頼、助け合おうという気持ちが伝わってくる。生実は感じていた。家族とはこういうものなのだろう。生い立ちや血のつながりが別であっても。そもそも、他人同士が伴侶となるではないか。
生実は窓辺に佇み大都会の夜に目を凝らしていた。かなりの回り道をしたけれど、家庭を再び持つ喜びに震えていた。美千代を心から愛していると自信を持って言える。それに知り合った女性たちは、今の女性に見られない優雅さを備えているのも好ましく思える。
しばらくの後、アメリカ映画でよくやるように、グラスをちんちんと鳴らした。何事かと一斉に生実に視線が集まる。
「ええ、皆さんにお知らせします。わたしは美千代さんに求婚しました。快諾を受けましたので、結婚します」
一瞬静かだったが、すぐわあーと歓声が上がり、おめでとうの連呼とともにみんなの祝福の拍手が部屋を満たした。久美子もやや複雑な心境ではあるが、これでいいのだろう。さやを紹介してくれたし、久美子自身、踏ん切りがつかない状況では。素直に喜んであげよう。これからずーっとお友達でいられるのだから。
生実は、ようやく囚われた男から脱却したと思った。が、ある意味で、また囚われの身になったのかも。しかし、それは心地よい希望の光に満たされたものだった。
了
あとがき
ある人が、「書き終わった作品を二・三ヶ月寝かせて置いて、作品のことは頭から離してあらためて読んでみると、まったく新しい視点が得られる」と書いていたのを思い出す。
今あつかましくもブログに小説らしきものを載せて思うのは、恥さらしもいいところだということである。なんと薄っぺらな作品だろうか。
生実(おゆみ)を始めとする登場人物の描き足りなさやプロットの構築に変化が乏しいところが気になる。例えば、生実の家族をもう少し濃密に描くとか、殺し屋の生実にもう少し仕事をさせるとか。今はそんな風に考えている。2007年(平成19年)2月
生実は考えていた。傷心のさやをどうしたものかと。一番いいのは、信頼できる人間が現れることだ。しかし、そうやすやすと現われることもない。ここは生実が一肌脱ぐ場面であるのは確かだ。さやは来週退院するという。そうなら、美千代に久美子を加えて退院を手伝うというのは、いいプランに思える。早速、美千代と久美子に電話で説明して、快諾を得た。
退院の日の病室は、まるでピクニックを楽しむ男女という風情で、会計の精算が出るまで、花が咲き乱れる五階屋上庭園を散策した。
さやと久美子は、生実の思惑通りの展開で、見つめあい手を握り合って、他人を寄せ付けない雰囲気になっていった。生実も知らず知らずの内に、美千代の腰に手を回していた。美千代はさりげなく身を預けてきた。
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生実は久美子を問いただし事情を聞いた。そして信治とも会って、クルーザーで釣りを楽しむ間、冗談めかしたり真剣味を帯びさせたり時に脅したりしながら、徐々にお互いの隙間を埋めていった。これには数回のクルージングが必要だったが。
久美子の話では、信治は男らしい生実に畏敬の念を覚えているようだった。生実は姉夫婦が営む麻布のイタリア料理店で働かせようと思っている。本人がいいといえばの話しだが。ハンサムだし根は好青年なので、店で続いてくれればと願う。姉の店に女性客が今以上に増えるだろう。
さやの弟はボランティア団体の世話で近々渡米して手術を受ける予定になっている。
その手術の成功を祈って、生実のアパートにさや、久美子、信治、美千代、それに増美とテルマが集まってパーティを開いた。さやと久美子は、まるで双子のように配色がまったく同じ服装をしていた。白の男物のポロシャツ、カーキの短パンは さや、カーキのチノパンは久美子という具合。どちらもポロシャツのボタンをはめられないほどの胸の隆起がまぶしい。それを見た信治が
「姉も捨てたもんじゃないですね」と感嘆する。
「何言ってるんだい。姉さんは飛び切りの美人で、男どもをふらふらにしてるよ」と生実。
増美とテルマ、手を握り合って親密な二人は、ともにロングヘアーで色白、違うのは髪の毛の色と瞳の色で、増美は黒の髪に茶色の目、テルマはブロンドの髪にブルーの目。こちらもプロポーションは文句のつけようがない。白のTシャツにブルージーンズという何の変哲もないあっさりしたもの。
かいがいしく生実の手作りの料理――といってもピザにパスタ、豚肉の包み焼きなどだが――を手伝っている美千代は、胸が大きく開いた赤のワンピースに赤のハイヒールは、まるでバレリーナのようだ。
生実はというと、紺の上下に、シルバーのネクタイを締め、おまけにボタンもきっちりと留めてある。宴は騒々しさの中にも、思いやりや信頼、助け合おうという気持ちが伝わってくる。生実は感じていた。家族とはこういうものなのだろう。生い立ちや血のつながりが別であっても。そもそも、他人同士が伴侶となるではないか。
生実は窓辺に佇み大都会の夜に目を凝らしていた。かなりの回り道をしたけれど、家庭を再び持つ喜びに震えていた。美千代を心から愛していると自信を持って言える。それに知り合った女性たちは、今の女性に見られない優雅さを備えているのも好ましく思える。
しばらくの後、アメリカ映画でよくやるように、グラスをちんちんと鳴らした。何事かと一斉に生実に視線が集まる。
「ええ、皆さんにお知らせします。わたしは美千代さんに求婚しました。快諾を受けましたので、結婚します」
一瞬静かだったが、すぐわあーと歓声が上がり、おめでとうの連呼とともにみんなの祝福の拍手が部屋を満たした。久美子もやや複雑な心境ではあるが、これでいいのだろう。さやを紹介してくれたし、久美子自身、踏ん切りがつかない状況では。素直に喜んであげよう。これからずーっとお友達でいられるのだから。
生実は、ようやく囚われた男から脱却したと思った。が、ある意味で、また囚われの身になったのかも。しかし、それは心地よい希望の光に満たされたものだった。
了
あとがき
ある人が、「書き終わった作品を二・三ヶ月寝かせて置いて、作品のことは頭から離してあらためて読んでみると、まったく新しい視点が得られる」と書いていたのを思い出す。
今あつかましくもブログに小説らしきものを載せて思うのは、恥さらしもいいところだということである。なんと薄っぺらな作品だろうか。
生実(おゆみ)を始めとする登場人物の描き足りなさやプロットの構築に変化が乏しいところが気になる。例えば、生実の家族をもう少し濃密に描くとか、殺し屋の生実にもう少し仕事をさせるとか。今はそんな風に考えている。2007年(平成19年)2月