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読書 ピーター・へイニング編「死のドライブ」(6)

2007-04-23 13:13:07 | 読書

アントニア・フレイザー「わたしの車に誰が坐ってたの?」

 車のミニには人の陰はなかった。ドアはロックされていて誰も入れないのに、灰皿には火のついたタバコが導火線を伝うように煙を上げていた。
 持ち主のジャコバインは、タバコを吸わないので不思議に思うと同時に恐ろしくなった。ある日、彼女(ジャコバイン)はおそるおそる車に乗り込むと誰もいないのに声が耳元を掠める。

「子供たちのことだ。君の子供たちは好きになれない。やつらを片づけてくれないか」おぞましい事態に直面した彼女。子供たちを救う道は唯一つ、“声だけの彼を隣に座らせ続けておけばいい。そうすれば、子供たちの安全は守られるからだ。彼の脅威から”と結ぶ。

 車を叩き壊しエンジンと車体を分離して、溶鉱炉に放り込めばいいではないかといいたくなるだろう。しかし、相手は得体の知れない何者かなのだ。それで解決すればいいが、果たして! それより母性の尊厳を謳いあげたと見るべきだろう。

 著者は、1932年イギリス生れ。オックスフォード大学卒業の歴史学者。1969年より歴史を題材にした作品を執筆し始め「スコットランド女王メアリ」でジェイムズ・テイト・ブラック記念賞、「信仰とテロリズム―1605年火薬陰謀事件」でセント・ルイス・リテラリー・アワードとCWAノンフィクション・ゴールドダガー賞を受賞。1997年に英国の代表的な勲章であるCBE章(Commander of the British Empire)を受けた。夫は2005年にノーベル賞を受賞した劇作家のハロルド・ビンター。